復習プリントから考える世界史Bの授業・教科書(近代)【アダム=スミス】
《復習プリントから[センター型問題に習熟しよう]》
●アメリカ独立宣言発表の年(1776年)にヨーロッパで出版された本を、次の①〜④のうちから一つ選べ。
① アダム=スミス『諸国民の富』
② デカルト『方法序説』
③ ダーウィン『種の起源』
④ マルクス『資本論』
●自作問題。正解は①である。
《授業との関連》
★アダム=スミスとアメリカ独立革命の同時代性を問うています。一見些末なことをたずねているように思えるかも知れませんが、実はイギリス産業革命とアメリカ独立革命が同時代の出来事であることを確認するための問題です。ただ、アダム=スミスの『諸国民の富(国富論)』がイギリス産業革命の進行中に出版されたことを、授業で伝えておかねばなりません。
★アダム=スミスは、「17〜18世紀のヨーロッパ文化」で取り上げるのが普通です。しかし私の場合は、産業革命の授業の中で、アダム=スミスの『諸国民の富』にもう一度触れることにしています。『諸国民の富』が産業資本主義成立期に書かれたことを、明確にするためです。その際、出版された年を明示し、アダム=スミスがグラスゴー大学でワットと同僚であったことも伝えています。
★授業の準備の中で次のような略年表を作ってみると、事実はより明確になります。(授業ですべての年代を取り上げる必要はありませんが。)
1764 ハーグリーヴズのジェニー紡績機
1768 アークライトの水力紡績機
1769 ワット、蒸気機関改良
1776 アダム=スミス『諸国民の富』
1779 クロンプトンのミュール紡績機
1785 カートライトの力織機
《教科書の記述》
◆非常にポピュラーな人名・著書名であるにもかかわらず、各教科書の取り上げ方はまちまちです。『諸国民の富』が18世紀後半の本であることを本文で明記しているのは、<東書>です。<山川(新)>は、「経済学の時代」という解説で取り上げ、出版の年まで明記しています。
◆<帝国>は「自由主義思想」というコラムで18世紀後半と記していますが、目立ちません。17〜18世紀の文化も含め、本文にアダム=スミスの記述がないのは問題だと思います。
◆<山川(詳説)>と<実教>では、産業革命期の著書であることがわかません。ただ<実教>のコラムでの解説は、近年のアダム=スミス観を踏まえた内容になっています。
※復習プリントの基本的考え方については → 【復習プリントと世界史Bの授業づくり】