2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

総合 ヨーロッパ 【ランス大聖堂とジャンヌ・ダルク】

1918年、フランスの思想家ジョルジュ・バタイユは、『ランスのノートルダム大聖堂』と題する小冊子を出版した。バタイユは書いている。 『我々の間には、あまりに多くの苦痛、あまりに多くの暗闇がある。(中略)たしかに神の光は我々すべてのために輝いてい…

現代 アフリカ・イスラーム世界 【マフディー運動が激化した】

★スーダンのムハンマド・アフマドがマフディー(神に正しく導かれた者)を自称したのは1881年であった。「エジプト人のエジプト」を掲げたアラービー運動が起きた年であり、イスラーム暦(ヒジュラ歴)では13世紀末にあたっていた。イスラーム世界では、前世…

近代 ヨーロッパ 【「マジャールの魂」】

■1848年、パリの二月革命は、瞬く間にヨーロッパ中に波及した。ウィーンでもベルリンでも三月革命が起こった。 3月13日、学生・市民・手工業者たちは議事堂に乱入して軍隊と衝突、群衆は王宮を取り囲んだ。14日にはメッテルニヒがロンドンに亡命し、ウィー…

中世 南アジア 【仏教がインドで消滅したのは】

■仏教の成立とその発展(大乗仏教の成立と東アジアへの伝播、上座部仏教のスリランカから東南アジアへの伝播など)については多くのことが述べられるが、インドにおける仏教の消滅についてはあまり触れられない。 グプタ朝期の4世紀以降、ヒンドゥー教の隆…

古代 東アジア 【『詩経』の愛の歌】

◆『詩経』と聞くと、仏教のお経の一つと誤解したり、中国の五経の一つと理解しても儒学の堅苦しいイメージでとらえたりする。しかし『詩経』は、豊かな内容を持った中国最古の詩集であり、春秋時代の半ば頃(前600年頃)に編纂されたと考えられている。編纂…

現代 東南アジア 【ホー・チ・ミンは読み上げた】

★ハノイのバディン広場に集まった人々を前に、ホー・チ・ミンは、彼自身が起草した「ベトナム民主共和国独立宣言」を読み上げた。1945年9月2日のことであった。 「全国の同胞たちよ」と呼びかけたすぐあと、「アメリカ独立宣言」の一節が引用され、さらに…

古代 南アジア・中央アジア 【驚きのクシャーナ朝】

★普通クシャーナ朝(1世紀半ば〜3世紀半ば)は、古代インド史で扱われ、カニシカ王の第4回仏典結集と大乗仏教・ガンダーラ美術ぐらいで終わってしまう。シルクロードの要衝で栄えたことが加われば十分、という感じだろうか。しかしクシャーナ朝は、古代イ…

古代 地中海世界 【ギリシア語で書かれた『新約聖書』】

■イエスはアラム語を話したが、『新約聖書』はギリシア語(コイネーと呼ばれる、ヘレニズム期にオリエントまで広まったギリシア語)で書かれた。この背景には、パレスチナ地方の複雑な言語状況があった。 当時のパレスチナ地方は、次のような多言語状況にあ…

中世 イスラーム世界・ヨーロッパ 【12世紀・イベリアの光の中で】

■1168年頃イブン・ルシュド(1126〜98)は、コルドバで、師のイブン・トゥファイルとともに、ムワッヒド朝のスルタンに謁見していた。彼は回想している。 『王は「天についての彼ら哲学者の考えはどのようなものか。天は永遠か、あるいは創造されたものか」…

近代 ヨーロッパ 【ランボーは、ヨーロッパを去った】

◆19世紀の後半、一人の詩人が疾風のようにフランスを駆け抜けていった。アルチュール・ランボー(1854〜91)。1873年、18歳で詩集『地獄の季節』を出版したランボーは、翌年詩集『イリュミナシオン』を完成し、原稿を詩人ヴェルレーヌに託した。しかし、20歳…

近世 ヨーロッパ 【血液は、循環している】

★心臓の働きと血液の循環を立証したハーヴェイ(1578〜1657)は、高校の世界史でも倫理でも、あまりに軽く扱われている。1628年出版の『動物における心臓と血液の運動に関する解剖学的研究』は、17世紀科学革命の一翼を担う、重要な書物であった。 後のダー…

近世 ヨーロッパ 【カントの町・ケーニヒスベルク】

■カント(1724〜1804)は東プロイセンのケーニヒスベルクに生まれ、一度もこの都市の外に出ることなく生涯を終えた。同じドイツのベルリンやフランクフルトやミュンヘンほどには知られず、今はロシア領カリーニングラードになってしまった都市。しかし、そこ…

中世 ヨーロッパ 【激しい政争の後、ダンテは】

■現代では、孔子の「四十にして惑わず」よりも、ダンテ『神曲』冒頭の次の文章の方が、共感を持って受けとめられるにちがいない。 「ひとの世の旅路のなかば、ふと気がつくと、私はますぐな道を見失い、暗い森に迷いこんでいた。」(寿岳文章訳、以下同じ) …

近代 東アジア 【「太平天国」の夢】

★洪秀全(1814〜64)らが中心となった太平天国の乱(1851〜64)は、キリスト教の影響を受けた反乱であった。ただ、洪秀全らが組織した拝上帝会は、中国の伝統思想や土俗的な信仰に基づく面を強く持っていた。 客家(はっか)出身の洪秀全は、4度目の科挙受験…

中世 ビザンツ帝国 【聖像破壊運動が吹き荒れた】

■イスラームのウマイヤ朝軍を退けたばかりの皇帝レオン3世は、726年自らの信条を表明した。キリストやマリアを描きそれを拝むことは、聖書に禁じられた偶像崇拝であると、主張したのである。730年には、正式に聖像破壊の勅令が出された。イスラームの偶像崇…

現代 北アメリカ 【ノーマ・ジーンは、駆け抜けた】

★1962年5月、会場にマリリン・モンローの甘い歌声が流れた。ジョン・F・ケネディ大統領の誕生パーティで、「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」を歌ったのだった。アメリカン・ドリームのヒロインとして絶頂にあったかに見えたマリリン・モンロー。しかし…

古代 東南アジア 【アンコール・ワットの光と影】

◆カンボジアの世界遺産アンコール・ワットは、12世紀前半、アンコール朝のスールヤヴァルマン2世(位1113〜50)によって造営された。王の即位とともに着工され、30年以上の歳月をかけて造られた。ヒンドゥー神話「乳海攪拌」や古代インドの叙事詩『マハーバ…

現代 イスラーム世界 【闘うアフガーニー】

★アフガーニー(1838頃〜97)を扇動家・政治的攪乱者とみる見方は、過去のものとなった。 アフガーニー(アフガン系)と自称したが、実際はイランの出身で、ムハンマドと4代カリフ・アリーの血を引く家系に生まれた。<スンナ派・シーア派>という枠組みを…

現代 ヨーロッパ 【戦車と装甲車が、プラハの街を埋めた】

★1968年、チェコスロヴァキアは、改革の希望に燃えていた。「プラハの春」である。 ドプチェク第一書記のもと、共産党自身が改革に乗り出した。4月、共産党の文書は次のように述べた。「党の目標は、社会の万能の支配人になることや、その指令によってあら…

古代 地中海世界 【イオニアの海辺で、哲学が生まれた】

★哲学はなぜギリシア世界で生まれたのか? なぜギリシア本土ではなく、エーゲ海東岸のイオニア地方で生まれたのか? いわゆる自然哲学者(プレ・ソクラテス期の哲学者)の多くが、イオニアのギリシア人都市やその近くの人であった。ミレトスからはタレスやア…

近世 アジア 【ザビエルの遺骸】

■1543年にポルトガル人が種子島に漂着したことから鉄砲が伝来したこと、そして6年後にイエズス会のザビエルがやって来たことは、よく知られている。しかし、なぜか、ザビエルとポルトガルの関係が見えるようには教えられない。 ポルトガル人種子島漂着の前…

近世 ラテンアメリカ 【コルテスとマリンチェ】

■1519年、スペイン人コルテスはメキシコ湾に侵入し上陸した。高原部に入り、トラスカラ(アステカ帝国の支配に抵抗し独立を維持していた都市国家)の部隊と戦った。コルテス側は兵500人(うち騎兵15)であったが、数万のトラスカラ部隊を圧倒した。鉄製武器…

近代 北アメリカ 【詩人ホイットマンが、侍たちを見た】

★1860年6月ニューヨークで、アメリカの詩人ホイットマンは、日本からやって来た侍たちを見た。幕府の遣米使節団の一行(77名)が、日米修好通商条約(1858)の批准書交換のため、アメリカに滞在していたのである。使節団一行は大歓迎を受け、日米の国旗が飾…