世界史B教科書の記述を比較してみると4 【ジェンダー】

※目的・対象教科書・評価については、【比較してみると1】

ジェンダー
■現在の歴史研究では、「ジェンダー視点」抜きに歴史を語ったり叙述したりすることはできないでしょう。近年のジェンダー研究の成果が高校の世界史教科書にどのように表れているか、比較してみました。

<山川>   
「ストウ」、「マリー・キュリー」などの表記に改善が見られ、女性参政権獲得やフェミニズムについても触れているが、全体としてジェンダーの視点は弱い。フランス革命時のグージュや同時代のウルストンクラフトについても触れていない。
 また、オランダの植民地政策の転換として「倫理政策」を取り上げるという踏み込みを見せながら、ジャワのカルティニに関する記述がないのは、バランスを欠いており、残念である。
 コラムを設けない編集方針は理解できるが、注で触れることはもっとできるはずである。

<実教>   
「世界史のなかのジェンダー」というコラムを14設けて、古代ギリシアから現代までの女性について記述している。中国史における唐〜宋期の女性観の変化や「近代朝鮮・日本の女性」についても述べられている。ジェンダーのコラム以外でも、インドのサティーについて触れるなど、問題意識が鮮明である。全体として、ジェンダーの視点からの研究成果を積極的に取り入れており、すばらしい。
 ただ、コラムという形でしかジェンダーについて記述できないという現状は、好ましいことではない。本文に記述してこそ、優れた世界史教科書と言える。

 ※<実教>は、本文のあちこちに古い見方が残っており、それをコラム等で補うかたちになっているようである。コラムの数が非常に多いので、生徒たちは勉強しづらいだろう。

<東書>   
コラムで「生活と家族の変化」、「女性参政権」について記述しているほか、インドのサティーやジャワのカルティニについても注で触れている。しかし、古代ギリシアの女性やグージュなどについては記述がない。また、「ストウ夫人」という表記が依然として使われているなど、ジェンダーの視点を教科書全体としてどう取り上げるか、十分に検討されていないと思われる。

【補足】ハリエット E.B.ストウの人種差別の意識が指摘されて久しい。(日本の児童書からも『アンクル・トムの小屋』は姿を消した。)にもかかわらず、<実教>が『アンクル・トムの小屋』の原著の写真を載せて積極的に紹介しているのは、疑問である。ジェンダーの視点のすばらしさとのアンバランスに、驚かされる。


三成美保・姫岡とし子・小浜正子編『ジェンダーから見た世界史』が刊行された(2014年5月、大月書店)。ジェンダー視点からの初めての世界史である。高校世界史教科書の構成に沿っているので、授業に取り入れられる内容もたくさんあると思う。「仏教における女性」や「キリスト教セクシュアリティ」というテーマも設定されていて、すばらしい。
 中国の作家である丁玲が取り上げられているので、作曲家のクララ・シューマン、彫刻家のカミーユクローデル、画家のフリーダ・カーロなども取り上げてほしかった。
 なぜか、ボーヴォワールには触れられていない。[2014年8月追記]

杉田敦・川崎修編『西洋政治思想資料集』が、フェミニズムの思想家をきちんと取り上げている[2014年9月刊、法政大学出版局]。政治思想史のテキストとしては、特筆すべきことではないだろうか。メアリ・ウルストンクラフトをいねいに取り上げ、ジュディス・バトラーについても触れている。[2015年2月追記]

世界史B教科書の記述を比較してみると5【19世紀の欧米文化】