世界史B教科書の記述を比較してみると5 【19世紀の欧米文化】

※目的・対象教科書・評価については、【比較してみると1】

【「19世紀欧米文化」の位置づけ・内容】

■19世紀の欧米文化は現代への影響が大きく、たいへん重要です。実際の授業でも、きちんと取り上げたいものです。(たとえば、ドストエフスキーなどの名前すら知らずに大学生や社会人になるのは、ちょっと悲しいことです。)
 旧来の「19世紀欧米文化」から、「19世紀末から20世紀初めの文化」を分けて位置づけるようになってきたのは、とてもよいことだと思います。

<山川>    
「欧米の文化」というタイトルにもかかわらず、アメリカの文学者が全く取り上げられていない。アメリカについては、科学技術と探検で触れればいいいというのだろうか。19世紀はアメリカ文学が確立した時期であり、ホイットマンマーク・トゥエインなどを取り上げるべきである。ヨーロッパの文化についても、問題がある。現行版に記述のあるキルケゴールは、削除されてしまった。自然主義文学のモーパッサンの記載もない。印象派の扱いも簡単で、ポスト(後期)印象派については本文では触れられていない。芸術家・作家の一覧表で作曲家のヴェルディプッチーニスメタナを取り上げているのは評価できる。ただスメタナを記載してドヴォルザークを取り上げないのは理解に苦しむ。
 本文に「ヘーゲル派の唯物論」という表現があるが、不適切である。正しくは「ヘーゲル左派」とすべきであろう。ただ、現在の高校の教科書で、ヘーゲル左派を取り上げる必要性があるとは思えない。
 全体として内容の不足が感じられる。「17〜18世紀ヨーロッパの文化と社会」の充実ぶりと比べて、アンバランスな印象を受ける。5ページ分という制約を考えた場合、「貴族文化から市民文化の時代へ」と「近代大都市文化の誕生」をもう少し簡潔に叙述し、取り上げる人物や作品を増やすべきであったと思う。

<実教>    
充実した内容で、特に19世紀の文学についての記述が詳しい。アメリカ文学についても触れているが、マーク・トゥエインの記載はない。音楽についてはやや物足りない。ワグナーだけが目立ってしまった。また、フォードによる自動車の大量生産を「19世紀の文化」の中で取り上げるのは、問題がある。
 上記と別に、帝国主義のところに<世紀末と「ベル・エポック」>の記述があり、工夫のあとがうかがわれる。ボードレールマラルメ、ワイルド、ムンククリムト、ガウディにも触れており、評価できる。クリムトとガウディの図版も載せている。ただ、<世紀末と「ベル・エポック」>というタイトルは、再考すべきだったと思う(東書を参考にしてほしい)。また、ニーチェについて2カ所で取り上げているものの、「超人を賛美し」などと述べ、適切な表現になっていないのは残念である。

<東書>    
「19世紀半ばまでの文化と思潮」と「(19世紀後半から20世紀初めの)社会・文化の変容」に分けて記述されている。教える側の力量が試されるが、これからはこのような見方が必要である。ただ、前者はやや物足りず、アメリカ文学への目配りはない。キルケゴールについても触れられていない。後者は充実しており(3ページを割いている)、ニーチェフロイトもきちんと位置づけられている。ニーチェについての記述のしかたも適切である。象徴主義アール・ヌーヴォーも、本文で取り上げている。シェーンベルクにまで触れているので、ウィーンの世紀末芸術も取り上げるべきだろう。
 「(19世紀後半から20世紀初めの)社会・文化の変容」は、現行版と順序を入れ替え、より適切な構成となっている。
 これらと別に「ラテンアメリカの文化」の項目をおいているのは、すばらしい。内容的には今一歩であるものの、今後の世界史教科書のあるべき姿を示している。

世界史B教科書の記述を比較してみると6【20世紀の文化】