世界史B教科書の記述を比較してみると6 【20世紀の文化】

※目的・対象教科書・評価については、【比較してみると1】

【「20世紀の文化」の位置づけ・内容】
 「20世紀の文化」はまさに私たちの中に生きており、それをきちんと対象化することは極めて重要です。しかし、高校「世界史」の中では、多くの場合(教科書でも担当教員の意識においても)軽視されており、残念な(高校生にとっては不幸な)状態が続いています。
 「いわゆる歴史家」は「哲学史文学史と芸術史は避ける」(三島憲一)という批判は、高校「世界史」の「20世紀の文化」にこそ当てはまるでしょう。「20世紀の文化」に限らず、文化史を教えるのはたやすいことではありませんが、歴史を重層的にかつ総体として捉えようとすれば、「哲学史文学史と芸術史」を避けることはできません。(一例をあげれば、ヴィトゲンシュタインを取り上げた教科書がなかったのは残念です。)
 「20世紀の文化」は、「現代文[評論]」や「倫理」の内容とも深く関わっています。著作者・編集者は、これらの科目との関連も視野に入れ、「20世紀の文化」を「世界史」の中にしっかり位置づけてほしいものです。

<山川>    
一番最後に「現代思想・文化の特徴」というタイトルで書かれている。わずか1ページ強のところに、ニーチェフロイト、シュペングラーからポップ・カルチャー、ポスト・コロニアル研究までまとめて述べるのは、無理がある。評論風の文章になってしまったが、求められているのは、世界史教科書としてのしっかりした記述である。
 19世紀末から20世紀初めの文化については、東書のように、別の箇所で取り上げたほうがよい。ニーチェについては、「虚無主義の哲学を探究」したなどという、古風で誤解を招きかねない記述をしていて、問題である。
 メキシコ壁画運動を取り上げているのは評価できるが、メキシコ革命のところで記述した方がいいかも知れない。また、サイードを取り上げた意図は理解できるものの、ケインズハイデガーレヴィ=ストロースなどを取り上げていないので、バランスを欠いている。サイードに触れるのであれば、フーコーなども取り上げなければならないだろう。

<実教>    
「第16章グローバリゼーションと地球環境の危機」の前に位置づけられている。サルトルレヴィ=ストロースキュビスムフォーヴィズムシュルレアリスムなどに触れており、タゴールなどへの目配りもある。しかし、歴史家ブローデルを取り上げながら、ケインズハイデガーには触れていないなど、アンバランスである。もし歴史家を一人取り上げるのであれば、ブローデルよりはマルク・ブロックではないだろうか。
 作家としてロマン・ロランとトマス・マンだけを取り上げているが(取り上げているだけいいとも言えるが)、半世紀前ぐらいの古い見方である。21世紀を生きる高校生が学ぶ教科書であることを、忘れないでほしい。また、現時点で20世紀を振り返る時、レーニン毛沢東を文化のところで改めて取り上げる必要があるとは思えない。もう少し内容をよく検討してほしかった。

<東書>    
現行版の<20世紀の文化と科学>をなくし、<20世紀の思想と「近代的価値」への問い>というコラムでまとめている。ハイデガーレヴィ=ストロースにも触れている。(ケインズについてはニューディルのところで記述している。)限られたスペースの中にオリエンタリズムという語まで盛り込んでいるのはある程度評価できるが、山川と同様、評論風の文章になってしまった。19世紀後半から20世紀初めの文化の記述が工夫されていただけに、たいへん残念である。
 グローバル化とその問題点などは本文で詳しく記述しながら、一方で20世紀の文化(しかも思想のみである)はコラムで扱うというのは、バランスを欠いている。現行版の<20世紀の文化と科学>の内容を刷新・充実させ、きちんと本文に記述すべきであった。

世界史B教科書の記述を比較してみると7【聖母マリア信仰】