【2014センター試験分析・問題点の多い「世界史B」】

《はじめに》

センター試験の出題内容は、高校教育の現場に大きな影響を与えます。その意味では、常に良問が求められるわけですが、今回はどうだったでしょうか。

★「傾向と対策」的な分析は予備校等に譲り、ここでは、出題内容・形式が「世界史教育に資するものとなっているか」という観点から、若干の分析と問題提起を行いたいと思います。


1 時代のバランス

 ◆「世界史A」の問題かと思われるくらい現代史からの出題が多く、バランスがとれていなかった。

  ○36問中14問が19世紀末〜20世紀からの出題で、全体の39%を占めた。
  ○また14問のうち6問は、第二次世界大戦後からの出題であった。(例年は3問程度である。)
  ○他にも、20世紀の出来事を選択肢に含めている問題が3問あった。

 ◆当然のことながら、古代・中世・近世・近代の各時代からの出題は少なくなった。たとえば、古代オリエント古代ローマからの出題はごく限られたものになったし、古代ギリシア・ヘレニズムの問題はなかった(かろうじて、ルネサンス人文主義に関連して問われただけである)。

 ◆「現代史をきちんと教えるべきだ」というメッセージだったのだろうか? 確かに現代史は重要であるし、大学入学後の勉強でもその知識は欠かせないだろう。しかし、試験問題の作成にあたっては、「世界史B」の教科書が先史から現代までバランスよく記述されていることを、きちんと踏まえるべきである。

 ◆残念ながら、今回の問題を見る限り、「世界史B」という科目の性格が十分に理解されているとは言えない。「世界史A」や「現代社会」との違いが、おさえられていないのではないだろうか。「世界史B」の学習においては、たとえば「近世史より現代史のほうが重要」などということはないのである。

 ◆現代史から出題する場合も、「世界史Bならではの問題」を作成してほしかったと思う。「世界史B」における現代史の出題には、<古代・中世・近世・近代との関連の中で現代の出来事を問う>という視点が必要だと思われる。第1問の問9(ユーロ)などは、工夫がなさ過ぎて唖然とするほどであった。


2 地域のバランス

 ◆時代だけでなく、取り上げられた地域もバランスを欠いており、ヨーロッパ史アメリカ合衆国史に偏っていた。

 ◆欧米中心の世界史についての反省が語られて久しいし、教科書はすでにそのような偏りを脱している。にもかかわらず、このような出題になったことは非常に残念であり、大きな問題であると思う。

 ◆ヨーロッパ史の中でも、さらに偏りが見られた。ドイツ史・フランス史からの出題が多く、ロシア・ソ連を除く東ヨーロッパからの出題はなかった。ビザンツ帝国史からの出題がなかったことも、問題であろう。

 ◆東南アジア史はきちんと位置づけられており、遊牧民琉球にも目配りがあるのは評価できるが、アフリカやラテンアメリカの取り上げ方は十分とは言えない。

 ◆イスラーム史はどうか。地図の問題を含め一応取り上げられているものの、世界史におけるイスラームの重要性からすると、極めて不十分である。欧米史偏重の結果であった。中央アジアも取り上げられなかった。

 ◆朝鮮史については朴正熙の出題があったが、東アジア史全体の中に位置づけた出題を考えてほしい。


3 分野のバランス

 ◆全体として、やや政治史・外交史に重点がおかれていた。ジャワのワヤンの出題などはたいへんよかったが、もう少し芸術や文学・思想に目配りした作問が望まれる。たとえば、第3問の問2(スペイン内戦)でヘミングウェーやオーウェルを出題することは、十分可能である。

 ◆広い意味での文化史に含まれるが、言語や文字に関する出題がなかったのは、「世界史B」としてはさびしい。今求められているのは、言語・文字・翻訳活動などに着目しながら文化の伝播・変容を問うような視点であると思う。

 ◆社会史的な視点も大切である。人の移動に関わる出題があったことは評価できるが、政治的事件による移動がほとんどであった。たとえば、モノや文化の伝播とも関連させながら、移民・巡礼・旅・交通などを取り上げれば、「世界史B」らしい魅力的な問題が作れるのではないか。

 ◆社会史や文化史を政治史・経済史との関連でとらえる見方(歴史を生きた全体としてとらえようとする観点)をいっそう強く持って、問題作成にあたってほしい。


4 地図・写真などの問題

 ◆メディナを答えさせる地図の問題は適切であった。ベルリンの占領地区を問う出題の意図は理解できるが、地図を使用して問うべきことは他にたくさんあると思われる。

 ◆近年の出題ではあまり見られないが、勢力や人・モノの移動を表した地図の使用をもっと考えるべきである。歴史を動的にとらえる力をみることができる。

 ◆グラフや表を使った出題もしばらく見られないが、歴史の数量的把握も重要である。過去のセンター試験の蓄積を生かしてほしい。

 ◆工夫のあとが見られたのは、映画「夜と霧」からの写真(第4問C)である。ただ、設問には直接関係がなかった。


5 年代の問題

 ◆年代整序の問題も年表の問題も、残念ながら現代史に偏っていた。問題検討の過程で全体を見渡し、修正すべきであった。

 ◆年表を使用する出題はよいと思うが、「世界史」であることを踏まえる必要がある。一国史の枠組みに近いかたちで問うことは避けてほしい。

 ◆地域・国を越えて同時代を問う問題(昨年まではよく見られた)は、現代史以外でも、「世界史B」にふさわしいものである。積極的な出題が望まれる。


6 空欄補充問題

 ◆空欄補充問題の少なさがセンター試験の良い面と考えてきたが、今回は4つの文の正誤を判断する問題が減少し、空欄補充の語句選択問題が大幅に増加した。36問中10問というのは、多過ぎる。試験問題としての質が低下してしまった。

 ◆空欄補充の語句選択問題の大幅増加は、生徒の意識にも教員の意識にも、良い影響は与えないと思う。<世界史の勉強=穴埋め問題を解くこと>と単純に考えるような傾向が強まってしまうだろう。歴史的な思考力を育もうとする授業は、ますます少なくなっていくかも知れない。


《まとめに代えて》

★私たちは、歴史事象を多角的に、また多層的にとらえる授業を目指してきました。そのような授業につながる出題が増えることを期待しています。


→ 授業観や大学教育との関連については 【授業を考える】 および 【世界史A・Bの現状と大学】