【2013センター試験問題「世界史B」について】

センター試験問題の内容は,、高校教育の現場に大きな影響を与える。その意味では常に良問が求められるのだが、今回はどうだっただろうか。「傾向と対策」的な分析は予備校等で詳細になされると思うので、ここでは「世界史教育のありかた」に関連して、いくつか私見を述べたい。
 
1 時代のバランス
 古代からの出題がやや少ない。「世界史A」ではないので、古代の出題がもう少しあってもよいのではないだろうか。先史・古代の内容が近代・現代にもつながっているという見方が必要である。そういう視点での作問を望みたい。
 第1問の問2・問3は現代史の問題であるが、たいへんよい視点での出題だった。

2 地域のバランス
 東南アジア、バルカン、中央アジアオセアニアなどにきちんと目配りされている。東南アジア史が全く出題されない年もあったが、今回は重視されていてよかった。東アジア史(特に中国史)の割合が多い年もあるが、今回ぐらいでよいと思う。ただ、4つの選択肢の1つでもよいので、朝鮮史については触れてもらいたい。
 ラテンアメリカについての目配りはあるが、キューバとテノチティトランを誤った文で出しているだけなのは物足りない。たとえば第1問の問8・問9などで出題が可能だったと思う。
 遊牧民の歴史についても、どこかで出題してほしかった。

3 宗教の出題
 第3問が「世界史上の宗教」というテーマで出題されている。第2問の問5、第4問の問6でも出題されており、宗教の出題が比較的多かった。しかし、仏教の出題がアショーカ王だけというのは、バランスを欠いている。工夫してもっと出題できるはずである。
 イスラーム史は、全体として充実していた。

4 地図・グラフなどの出題
 3種類の地図が出題されており、地域のバランスもとれている。地図の出題が極端に少ない年もあるが、今後も3種類程度の地図は使用してほしい。
 ただ今回は、3種類とも平板な地図になってしまった。人・ものの移動を表した地図や民族・宗教などの分布を表した地図がほしかった。そのような地図を使うことで、理解の深浅を判断できるからである。また、「歴史は暗記」というような考え方から脱皮することにもつながる。
 この数年グラフや表の出題はないが、歴史の数量的把握も重要である。グラフなどの統計資料を使った出題が望まれる。

5 リード文・写真と出題内容
 以前から指摘されていることであるが、よい内容のリード文でありながら、それが出題に生かされていない場合がある。
 たとえば第2問のBのリード文はブダペストについてのものであるが、ハンガリーについてもブダペストについても出題はない。第2問Cのフランクフルトについても同様である。写真まで載せている意味が全くない。
 第4問のCもたいへんよいリード文で、図a・bも歴史を考えさせるには適切な史料である。にもかかわらず、出題とは全く関係がない。ここで国民国家ジェンダーに関わる出題があったら、すばらしかっただろう(イギリスにおける女性参政権実現の時期は間接的に問われているが)。

6 小問数
 全体としてバランスのとれた良問を作成するためには、38問まで増やしてもよいのではないか。難易度にもよるが、60分で38問解くことは高すぎるハードルではないと思う。

■三百数十ページの教科書から36問を作る苦労は並大抵のものではないと思うが、今後も改善を重ねて、高校の世界史の授業に良い影響を与える出題をしていただきたい。