世界史ミニ授業(古代)【イヴの食べたリンゴ(その2)】

★さあ、切りました。このリンゴの断面に、すばらしいものが現れているはずなんです。[そっと、自分だけ見てみる。生徒たちも興味津々。]大丈夫ですね、きれいに出てますね。何が現れてると思う? (生徒たち、想像がつかない。)んー、どうしようかな、ヒント言うか…。じゃ、ヒントね、ある図形が現れてるんです。(生徒たち、あまりの意外さのためか、答がない。)出ないか…、実はね、★のかたちなんです。はい![リンゴの断面を見せる。](前の方の生徒たち、「ホントだ」)[教室の後ろの方まで回りながら、リンゴの断面を見せる。](あちこちで、「ホントだ」「スゲエ」などの声。)すごいね。こういう風になってる。[板書:リンゴの断面に★]

 古代の地中海世界の人たちも、リンゴを輪切りにすると★が現れることを知ってた。それでね、古代地中海世界の人たちは、こう思ったんだね。[板書:リンゴには★が隠れている。]この発想、いいね。ロマンがあるね。天上のものが地上にもあるっていう発想ね。こうして、人々は、リンゴを、特別な、神聖な果物と考えるようになったって言うんだ。一種の霊力を持った果物だね。[板書:霊力を持った果物]リンゴをこういう風に考える文化が地中海世界にずっとあったから、「善悪を知る木の実」がいつのまにかリンゴと言われるようになったんだ。あっ、これは一つの説ね。結構、説得力はあると思うんだけど。

 いつからリンゴって言われるようになったかは、わかんないんだ。ミルトンの『失楽園』、覚えてる? (何人かの生徒、うなずいている。)17世紀半ば過ぎの、ピューリタン文学だね。『失楽園』には、はっきりとリンゴって書いてあるらしくて、私は読んだことないんだけど、それで、イヴとアダムが食べたのはリンゴだって、決定的になったのかな。ただね、この絵、見てみて。[デューラーの「アダムとイヴ」を見せる。]デューラーの「アダムとイヴ」。イヴが持ってるのはリンゴだね。[教室の後ろの方まで見せて歩く。]デューラーは、北方ルネサンスの画家だったね。ミルトンの150年くらい前、16世紀初めに画かれた。そうすると、中世の時代にリンゴって言われるようになったのかな?

 リンゴを輪切りにすると、★が現れるっていうのはすごいよね。今度、家でやってみて。弟とか妹いる人は、「おねえちゃん、すごい!」なんて言われっかもよ。(生徒たち、ニコニコしている。)最後にもう一つだけ。この星形は何角形の中にできる星形?(ある生徒「六角形」)六角形のなかにできる星形は、こっちだね。[図形を板書して]この星形も有名なんだ、ダヴィデの星って言って。ユダヤ人のシンボルだね。今のイスラエル国旗にも使われてる。この★は、正五角形のなかにできる。[図形を板書。]ペンタクルって言うんだって。(ある生徒「五茫星形」)よく知ってるね、すごい! 古代ギリシアでも、この正五角形の中にできる星形は、神秘的な数的調和を表すって考えられた。だれだっけ? 数的な調和がこの世界の原理だって言ったのは。(ある生徒「ピタゴラス」)そうだね、すばらしい。それで、ピタゴラスは、教団をつくってたんだけど、ピタゴラス教団、そのシンボルマークがこの星形だったと言うんだ。[板書:ピタゴラス教団のシンボルマーク]

 ということで、アダムとイヴのリンゴの話から、ピタゴラスまで来てしまいました。こういう授業も、たまにいい? (生徒たち、うなずいている。)古代の人たちのイメージの力ってすごいね。それは、今も変わんないかも知れないよ。[板書:イメージの力]じゃ、これで終わりますが、リンゴ食べたい人、持っていっていいよ。霊力が、あっかもね。

【イヴの食べたリンゴ(その1)】 、授業観については 【授業を考える(ミニ授業の公開にあたって)】