世界史ミニ授業(中世)【ノルマン・コンクェストと「イギリス」(その1、「イギリス」という呼び方)】

★ノルマン人の移動のところで、ノルマン・コンクェストについては簡単に触れておきました。ただ、ロロに率いられたノルマン人が北フランスに住み着いてから、150年も後のことなので、ここで改めて取り上げます。ノルマンディー公がどこを征服した出来事だっけ? (何人かの生徒「イングランド」)そうだね、正確に言ってくれたから、良かった! イギリスって言わない方がいいよって言っておいたんだよね。それで、まずそこから話したいと思います。

 普通イギリスって言ってるのに、そう言わない方がいいって、変だよね。それは、なぜか? イギリスの、現在の正式国名から考えてみるね。○○くん、イギリスの現在の正式国名は何ていうの? (○○くん「えーと、長いのですよね。」)そうなんだ、長いね。(○○くん「グレート・ブリテン…何とか」)うん、グレート・ブリテンが出てきたから良かった。正式国名は[板書:現在の正式国名 グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国]英語も書いておくよ。[板書: United Kingdom of Great Britain annd Northern Irelannd ]アルファベット2文字で略して言う時は、何て言うの? □□さん。(□□さん「 UK 」)そうだね、United Kingdom の UK ね。歌のランキングなんか言う時は、 UK チャートって言うらしいよ。

 それでね、この正式国名には、イギリスっていう語はないんだよ。不思議だね。それから、連合王国っていう言い方に注意してね。どうして連合王国になったかって言うと、今のイギリスは、実は4つの地方から成り立ってるんだ。その連合っていう意味なんだね。[板書:4つの地方 イングランドウェールズスコットランド北アイルランド]もともとは別の国だったのが連合して一つの国になった。プリント、配るよ。4つの地方の場所を確認して。[イギリスの白地図を配付。]大丈夫? わかった? それから、プリントに書き入れてね。イングランドウェールズスコットランドを合わせて、グレート・ブリテンと言ってる。ちょっとだけ、資料集見るか。えーと、資料集の○○ページ。そこに、連合王国の国旗の成り立ちが出てるね。開いた? …また、あとでやるけど、こんな風に、今の連合王国ができていった。その中心になったのが、イングランドね。イングランドの言葉を何て言うの? (生徒たち、不意を突かれたように沈黙。)イングランドの言葉だから、ね、わかるでしょう。わかんないと、困るよ。えー、□□さん。(□□さん「…イングリッシュ 」)そうだよね! イングランドの言葉だから、イングリッシュだよ。[板書:(イングランドのところに)England → English ](生徒たち、納得している。)

 それから、イングランドって言う語は、「アングルランド」から来てるんだって。「アングル人の住む地方」っていう意味。はい、ちょっと復習するよ。ゲルマン人の移動のところで、やったね。今のイギリスに移住したゲルマン人は? (生徒たち「アングル人、サクソン人」)そうだね、そのアングル人ね。移住したゲルマン人を、まとめてアングロ・サクソン人ても言うんだったね。これ、大事だからね。[板書:(イングランドのところに)アングロ・サクソン人]それで、アングロ・サクソン七王国ができたんだよね。(生徒たち、うなずいている。)それと、アングル人・サクソン人が入って来る前から住んでた人たちを何て言うんだっけ? (生徒たち、沈黙)あれー、先に住んでた人たちだもん、重要だよ。…ケルト人だからね。[板書:(ウェールズスコットランド北アイルランドのところに)初めケルト人が多かった] 

 ここまで、大丈夫? わかったかな。それでね、正式国名にはないのに、どうして日本でイギリスって言うようになったか。ちょっと話が飛ぶけど、戦国時代、最初に日本にやって来たヨーロッパ人は? (生徒たち、沈黙。)日本に最初にやって来たヨーロッパ人だよ。中学校では、そういう言い方では習わないんでしょ。思い出して。(△△くん「ポルトガル人」)そうです! ポルトガル人が日本に来るようになって、ポルトガル人はイングランドのことを「イングレス」って言ったんだって。そこから、日本では「エゲレス」って言うようになった。日本人には「エゲレス」って聞こえたんだね。そして、…[板書:cf.日本とエゲレス(英吉利)]この漢字を当てはめた。これは、中国から伝わったのかも知れない。驚くべきことだけど、この「英」だけ残って、今も使ってるんだね。英語とか、英国って。で、「エゲレス」っていう発音が、今はイギリスっていう発音になった。すごい歴史だね。イギリスという語は、もともとイングランドを指してたんだね。

 そして、授業ではかなり後になってからやるけど、18世紀になって初めて連合王国ができた。ところが、日本人は、江戸時代も、明治以降も、連合王国っていうことに注意を払わなかったから、イギリスという語で連合王国全体を言うようになったんだね。(黒板を指して)本当は、イングランドは一つの地方ね。だから、「イギリスの」とか「英国の」っていう意味の英語は、 British を使うんだね。 Britain からきた British ね。 というわけで、国名にも、すごい歴史があるんです。[板書:日本では、イングランド連合王国も「イギリス」で表した]

 はい、それじゃ、ノルマン・コンクェストに戻らなくちゃね。大分前置きが長くなったけど、こういうわけで、ノルマン・コンクェストでも、イギリス征服じゃなくてイングランド征服って使ったわけなんです。征服したのは、イングランドだけだから。これを理解しておくと、近世以降も全然違うからね。


ミニ授業【ノルマン・コンクェスト(その2)】

→ 授業観については 【授業を考える(ミニ授業の公開にあたって)】

→ 関連テーマ 【ノルマン・コンクェストと「イギリス史」】