世界史ミニ授業(近世)【ルネサンス<デューラーの「メランコリア」>】

★今度はドイツ、正式な国名で言うと神聖ローマ帝国だけど通称でドイツを使うね、ドイツには画家デューラーがいた。代表作に「四人の使徒」がある。[板書:ドイツの画家デューラー(1471〜1528)「四人の使徒」(1526)]年代は覚えなくてもいいよ。ただ、まず第一に、この出来事との関連に注意して。[板書:cf.ルターの改革開始(1517)]まもなく出てくる宗教改革、その嵐の中で晩年のデューラーが生きていたっていうこと、その中で「四人の使徒」が描かれたっていうこと、それだけは理解してください。じゃ、資料集の「四人の使徒」、見てみて。この絵は、信仰のシンボルとして、ニュルンベルクの教会に納められた。前にセンター試験にも出題されたよ。

 で、デューラーは1500年前後の人だね。年代的には、第二にイタリア・ルネサンスとの関連にも注意して。[板書:cf.イタリア・ルネサンス最盛期]つまり、レオナルド・ダ・ヴィンチが「最後の晩餐」や「モナ・リザ」を描き、ミケランジェロが彫刻「ダヴィデ像」を造り、ラファエロが聖母子を描いていた頃、ドイツに生きていた。しかも、2度もイタリアに滞在して、イタリア絵画を勉強している。またネーデルラントも旅して、ファン・アイク、覚えてるかな、ファン・アイクの絵なんかも見て研究している。だいたいわかったかな、デューラーが生きた時代。デューラーは、まさにルネサンス時代の、天才的な画家で人文主義者だった。

 それでね、今日は教科書や資料集には載ってないんだけど、「メランコリア」っていう作品を見てみるね。[板書:銅版画「メランコリアⅠ」]これが、なかなかインパクトあるから。(印刷した「メランコリアⅠ」を配付する。)…どう? …○○さん、どんな印象? (○○さん、何と言っていいかわからない様子。)なかなか言葉にするの難しいかもね、いろんなもの描かれてるからね。それで、ほおづえをついてじっと考え込んでる人いるね、翼があるんだけど天使っていうわけじゃないらしい。これがメランコリアの状態。メランコリアってわかる? 日本語で言うと、憂鬱とか憂愁っていう意味だよ。「板書:憂鬱]なんで、憂鬱っていうタイトルの作品が描かれたか。中世までは、憂鬱っていうのはマイナスのイメージだったんだって。今もそうかな? ちょっとわかんないな。ところが、ルネサンスになって、芸術家のような創造的な精神の持ち主には、憂鬱な気質があるって言われるようになった。[板書:創造的精神と憂鬱の深い関連]レオナルドとかミケランジェロには、そういうところがあったかもね。ラファエロは違うみたいだけど。デューラーメランコリアっていうテーマを選んだ理由はわかったね。

 描かれてるものを一つ一つ説明していくのは、止めるね。時間かかっちゃうから。一つのことに絞ってやってみるよ。作品の右上にベルがあるね。わかった? その下に数字が並んでるでしょ。そこには、こういう数字が並んでる。[以下を板書]

  13  3  2 16
   8 10 11  5
  12  6  7  9
   1 15 14  4

書いちゃった? はい、じゃ、これらの数字は何を表しているでしょう? アトランダムに数字が並んでるように見えるけど、ここには、ある規則性が隠れてる…。それを、見つけられるかな? ちょっと考えてみて。周りの人と相談してもいいよ。(1〜2分時間をとる。)はい、いいかな、わかった人? (複数の手が挙がる。)じゃ、△△さん。(△△さん「タテの列を足すと全部34になって、ヨコも足すと全部34。あと、斜めに足すと、やっぱり34。」)そうなんだね、タテ、ヨコ、それに対角線上の4つの数字を足しても34。ただ、それだけじゃないんだね、もっとある。はい、気づいた人? (結構活発に手が挙がる。ふだんあまり手を挙げない生徒も手を挙げて答える。四隅の数字の和、中央の4つの数字の和、4分割した時の4つの数字の和が、いずれも34になることが明らかになる。)

 ということで、すごいことがわかったね。で、こういうのを魔方陣て言うんだよ。[板書:魔方陣]魔法じゃなくて、魔の、不思議な方陣。古代から知られていたらしい。この世界が数的な調和を持ってることを表していたんだ。ここで思い出せるかな? 古代のギリシアで数的な調和を考えた人、いたね。誰だっけ? (生徒たち、沈黙。)□□くん、どう? (□□くん「ピタゴラス」)そう! すばらしい。[板書:…数的な調和(ピタゴラス以来の考え方)]

 じゃ、デューラーに戻ってまとめるよ。ルネサンスになって、メランコリアと創造的な精神は関連してるって考えられるようになったんだったね。それでね、これは今のみんなの芸術家のイメージと違うかも知れないけど、創造的な精神と数学的な精神とは一体と考えられてたんだね。レオナルド・ダ・ヴィンチが工学にも関心を持ってたのを思い出すといいかもね。デューラーにとっても、そうだった。ただ、翼のある人が手に持ってるコンパスが止まってるから、デューラーは創造性についてさらに深い考えを持ってたかも知れない。この銅版画にはもっといろんなことがあると思うから、みんなそれぞれ考えてみてね。はい、以上で、デューラーを終わります。

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