復習プリントから考える世界史Bの授業・教科書(近世)【イングランドのジャマイカ占領】

《復習プリント[基本事項を確認し流れをつかもう]から》  *はやや難

ピューリタン革命とも呼ばれる内戦のなかで、クロムウェルが率いる( 1 )派は、立憲王政を目指す( 2 )派を追放し、1649年、急進的な( 3 )派と結んで( 4 )を処刑した。ここに共和政が成立したが、クロムウェルは( 3 )派を弾圧し、1653年には終身の( 5 )に就任して、軍事独裁政権となった。この間、クロムウェルは、カトリック教徒の多い( 6 )と( 2 )派の拠点だったスコットランドを征服した。また、1651年には( 7 )を制定してオランダと争う一方、1655年、カトリック国スペインに対抗して、カリブ海の*( 8 )を占領した。

【解答】
 1 独立   2 長老   3 水平   4 チャールズ1世   5 護国卿   6 アイルランド   7 航海法   8 ジャマイカ


《授業との関連》

★授業においても「ピューリタン革命とも呼ばれる、イングランドの内戦」として教えています。

★この短い表現には、「イギリス史」に関わる重要な論点が二つ含まれています。一つは、現在のイギリスにおけるとらえ方と同じく、「革命」ではなく「内戦」と位置づけていることです。二つ目はイギリスという語を使わず、「イングランド」としていることです。「イングランド」と押さえないと、スコットランドアイルランドの征服ということが理解できなくなります。私の場合、イギリスという語は、1707年のグレート・ブリテン王国の成立以後使用しています。それまでは、「イングランド」で通しています。

★「イングランド」と「イギリス」とを区別するかどうかは、たいへん重要な問題です。次のページをご覧ください。(→テーマ史 【ノルマン・コンクェストと「イギリス史」】 )(→ミニ授業【ノルマン・コンクェストと「イギリス」①】

カリブ海のジャマイカは、高校世界史における盲点と言っていいでしょう。「ヨーロッパ諸国の海外進出」で出してもいいのですが、まずクロムウェルのところで触れることにしています。ジャマイカは、17世紀後半から18世紀末にかけて大規模なサトウキビ・プランテーションが展開されたところで、大西洋奴隷貿易やイギリスの「生活革命」と切っても切れない関係にあるからです。(→テーマ史 【ジャマイカの苦難】

★たいへん残念なことですが、カリブ海地域は生徒たちにとって馴染みがなく、また多くの教科書でも扱いが弱くなっています。そのため授業では、関連する事項があるたびごとに何度も取り上げ、地図でも確認しています。


《教科書との関連》

◆「イングランド」と「イギリス」を1707年を境に区別しているのは、残念ながら<実教>と<山川(新)>だけです。<山川(詳説)>は、ノルマン人の移動のページに注として『「イギリス」という国名は1707年までイングランドの意味でもちいる。』と書いていますが、その理由については何も触れていません。<帝国>は、なぜかテューダー朝以降「イギリス」と表記しています。<東書>は、「イギリスは存在しない」とコラムで書いているにもかかわらず、中世から「イギリス」と表記しています。

◆17世紀半ばのイングランドの動乱を「革命」に重点をおいてとらえるか「内戦」に重点をおいてとらえるかは、教科書によって微妙に違っています。(ここでは詳述しません。なお、この動乱のところでホッブズを本文に記述している<山川(新)>はすばらしいと思います。)

クロムウェル時代のジャマイカ占領について、本文で明確に取り上げているのは<帝国>だけです。

 ○「クロムウェルの時代にはアイルランドやジャマイカを征服して植民地帝国の基礎を築き」(p.158)

◆<帝国>は、カリブ海についても、「大西洋奴隷貿易の展開」や、2ページにわたる「17〜18世紀 近代世界史ステムの変動」で、きちんと記述しています。

◆<山川(新)>は、「大西洋世界」という語を使いながら、ブラジルと「カリブ諸島」での砂糖生産を記述しています。ジャマイカには触れていません。

◆<山川(詳説)><東書><実教>では、カリブ海地域への目配りがなく、ジャマイカも取り上げていません。(<実教>は、「19世紀前半の世界」の地図でジャマイカを記していますが。)また、この3社は、従来の「西インド諸島」という語を使用しています。そろそろ「カリブ海地域」という語に切り替えた方がよいのではないかと思います。(バルバドスから来た女性は、私に‘ I'm Caribbean ’と言っていました。なお、『世界各国史25 ラテン・アメリカ史Ⅰ』[山川出版社]を参照ください。)


※参考

 クロムウェル時代のジャマイカ占領とその後のサトウキビ・プランテーションの展開については、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996)でわかりやすく取り上げていますが、秋田茂『イギリス帝国の歴史』(中公新書、2012)が明解に述べています。

※復習プリントの基本的考え方については → 【復習プリントと世界史Bの授業づくり】