世界史ミニ授業(古代)【ギリシア神話】

★それでは、今日はギリシア神話です。[板書:ギリシア神話ギリシア神話はローマに伝わり、それでギリシアローマ神話っていう場合もあります。そしてヨーロッパ全体に広まった。ギリシア神話は、ヨーロッパ文化の土台の一つなんです。

 それじゃ、プリント見てください。(配りながら)それぞれの神様をイメージしやすいように、イラストが入ってるよ。(プリントは、ギリシア神話の神々+アキレウスオデュッセウス。)まず神々のほうからね。これらの神々全部は説明できないので、授業で取り上げる神様の名前言うから、マークして。まず、最高神ゼウス、それからゼウスの奥さんのヘラ、それからアテナ、兜ををかぶって槍を持ってるね、アテナは少し後でやります。今度は、楽器を弾いてるアポロン、そして、美と愛の女神アフロディテ。残念だけど、これぐらいしかできないね。下に出てるポセイドンとかも聞いたことあるでしょ。(うなずいている生徒も。)アテナを除いた4つの神様を説明した後、いくつかの有名なストーリーを紹介します。

 ゼウスから入りますけど、その前に、こういうことが起こったから、よく理解してね。それは、神々の名前や発音の変化。[板書:神々のギリシア名→ラテン名(ローマ名)→英語名]もう一度確認しておくけど、ローマの人々のことばをラテン語って言うからね。これから(L)と書いたらラテン語のことね、(E)はもちろん英語。ギリシア語の神様の名前がローマに伝わってラテン語の名前に変わった、そしてそれが今度は英語の中に入っていった。いい? これから具体的に見ていくよ。

 じゃ、まずゼウス。[板書:①最高神(主神)ゼウス]この前の授業の「オリンピアの祭典」も、ゼウスに捧げられたスポーツの祭典だったね。[板書:雷神でもあった]少し前にやったけど、古代の人たちは、稲光を神様と考えたんだったね。日本でもそうだった。ちょっと比較しておくと[板書:cf.バラモン教のインドラ]、インドラも雷の性質を持ってた。ゼウスとインドラは、ずっともとをたどると、同じ神様だったらしいよ。

 それで、ゼウスはローマに伝わってユピテルっていう名前になった。[板書:→(L)ユピテル]この名前は、聞いたことないでしょ。だけどね、この後、発見があるからね。今日の一つ目の発見。ユピテルをアルファベットで書くと[板書: Jupiter ]もう、発見した? (ニコニコしてうなずいている生徒、数名。)わかった人、いるね。ユピテルが英語に入って、はい、これを英語読みすると? (生徒たち、一斉に「ジュピター」)そうなんです。スペルはおんなじね。[板書:(E)ジュピター]ゼウスとジュピターって、同じ神様なんだよ。

 ジュピターっていう名前は、ポピュラーだもんね。みんなは、○○○○の歌で知ったかも。あれは、いい歌だよね。ただ、あの歌のジュピターは神様っていうより、木星ね。ゼウス、ジュピターがどうして木星になったかは説明する時間ないけど、星占い、星座占いと関係がある。興味ある人は、調べてみて。

 次の神様、ヘラ。[板書:②結婚の女神ヘラ]
 (この部分は省略しますが、ユーノーからジュノーになったことを話し、 June bride まで触れます。)

 3番目の神様。すごく有名だね。[板書:③美と愛の女神アフロディテ
 (この部分も略しますが、前時の「身体の美への関心」を思い起こさせながら、ウェヌスからヴィーナスになったことを話します。)

 じゃ、4人目、じゃないね、神様だものね。4番目の神様。[板書:④音楽・予言・太陽の神アポロン]ラテン名も英語名も、アポロ。アポロ11号の月面着陸っていう出来事あったね。あれも、アポロンからきた名前。音楽を司る神様としても有名なんだけど、今日は、予言にしぼって話します。[板書:デルフォイアポロン神殿]これは、ギリシアではすごく有名な場所だった。資料集の写真見てみましょう。えーと、○○ページ開いて。…開いた? そこに写真が出てるね。私、一度テレビで遺跡の映像見たんだけど、なんか神秘的な雰囲気が漂ってたよ。自分のこれからの運命を知りたいって思った人は、みんなデルフォイアポロン神殿に行って占ってもらったんだって。[板書:全ギリシアの占いの中心]

 それでね、その神殿の入り口には、あることばが掲げられていた。こうやって、石畳を登ってきて、入り口に来るでしょ。(廊下から教室の入り口を使って、ちょっと演技。)そうすると、書いてあったんだね。[板書:神殿の入り口に掲げられたことば]このことばは、ギリシアでは有名だったらしい。[板書:「(    )を知れ」]さあ、ここに何ていうことばが入るでしょう? …じゃ、ちょっと時間とるから、周りの人と話してみて。(1分半ぐらい待つ。)はい、どうかな? わかったかな? (ある生徒「恥を知れ」。生徒たちの笑い。)え? (また教室の入り口のほうに行って)自分の運命を占ってもらおうと思って入り口まで来ると、「恥を知れ」って書いてあるの? (生徒たち、笑っている。4〜5人に尋ねるが、なかなか出てこない。)じゃ、□□さん。(□□さん「自分」)そうだね、正解だね! やっと出た。古くからの訳で書いておくね。日本では、この訳で知られてるから。[板書:( 汝自身 )]汝自身を知れ、ね。あなた自身を知れ。んー、結構意味が深い。自分のことって、なかなかわかんないからね。それでね、このことばを自分の哲学に取り入れた哲学者がいた。[板書:→哲学者ソクラテスソクラテス、有名な哲学者だよ。

 (この後、⑤勝利の女神ニケ、そして⑥アキレウスと⑦オデュッセウスの話。ナイキに触れた後、アキレス腱の由来を話し、「王女ナウシカ」にも触れます。そして、神話とは少し区別しながらホメロスとその作品名を出します。)

 (ちょっと時間を気にしながら)ギリシア神話の最後ね。[板書:⑧美少年]今、美少年なんていうことば、あんまり使わないね。簡単に話すよ。[板書:ナルシス](「ナルシス」と書いたら、生徒たちがドッと笑い、チャイムが鳴った。)じゃ、次の時間、ナルシスからね。

 それから、授業で時間とれないので、ギリシア神話パンドラの箱」とギリシア悲劇の傑作『オイディプス王』のプリント、関心ある人は前から持っていってください。はい、終わります。


※ある高校での1時限分の授業を再現しました。最後は時間切れになってしまいましたが(この高校では45分授業)、生徒たちは結構楽しんでいたと思います。最後に用意していた2枚のプリントは、「半分ぐらいの生徒は持っていくかな」と思っていたのですが、全員もらっていったようです。

※通常の世界史の授業では、ギリシア神話に1時限分を使うなどということはないでしょう。ただ私には、「ヨーロッパ文化の土台の一つとして、ギリシア神話に触れないわけにはいかない」という気持ちが強くあり、受験のための世界史Bでも取り上げてきました。

※この授業のねらいは、次の通りです。

 ①ギリシア神話に親しむ。
 ②いくつかの語がギリシア神話に起源を持つことを理解する。
 ③ギリシア神話とラテン文化、英語文化、哲学・心理学分野の関連を理解する。
 ④①〜③を通して、ギリシア神話がヨーロッパ文化の土台となったことを理解する。
 ◇世界の歴史と文化を学ぶ喜びを味わう。

※授業のねらいの◇は、私の世界史の授業全体の目標でもあります。もちろん、ギリシア神話のように興味を引く題材ばかりではありませんので、なかなか達成するのが困難な目標です。でも、「難しいけどおもしろい」と生徒たちが感じてくれるよう、工夫を重ねてきました。

※「受験を考えると、こういう授業はできない」と考える方も少なくないでしょう。しかしこのような授業は、受験の学力の土台もつくります。知識注入一辺倒の授業は、かえって受験の学力が育つことさえ阻害します。「難しいけどおもしろい」と感じることができれば、生徒たちは受験もクリアしていくものです。

※授業観については 【授業を考える(ミニ授業の公開にあたって)】 および 【授業を考える・その2(ミニ授業を公開しながら思うこと)】