復習プリントから考える世界史Bの授業・教科書(近世)【啓蒙思想】

《復習プリントから(基本事項を確認し、流れをつかもう)》  *はやや難

●18世紀には、フランスで啓蒙思想が盛んとなった。啓蒙とは「*( ア )の光で無知の暗闇を照らし、知識を広めて不合理を正す」という意味である。そこから、絶対王政や宗教的不寛容が、批判の対象となった。モンテスキューは『( イ )』を著して、三つの( ウ )の分立により王権を制限しようとした。ヴォルテールは『( エ )』でイギリスの政治体制を賛美し、ディドロダランベールは『( オ )』を編集して啓蒙思想を集大成した。一方ルソーは、*( カ )の進歩は人間の善性を失わせたとし、『( キ )論』や『社会契約論』で自由と平等を論じた。後者は、独自の人民主権論・*( ク )民主政論で知られる。


《授業との関連》

★フランス語のリュミエール、英語のエンライトゥンメントということばを出しながら、もともと啓蒙が「(理性の)光」に関連した語であることを示し、問題文のように説明をしています。啓蒙の意味を説明をしないと、「理性の光」のない、全く非啓蒙的な授業となり、生徒たちは啓蒙思想の意義を理解しないまま、人名と著書名の暗記に走ることになります。

モンテスキューに関しては、空欄に「三権分立」と書かせる問題は、あえて作っていません。「権力の分立」をきちんと理解してもらうためです。驚くべきことですが、高校生の少なくとも8割は、三権(立法権・行政権・司法権も必ず確認しています)の「権」は、権利の「権」だと思っているのです。これには愕然としますし、日本の社会科教育の貧しさを思わざるを得ません。権力の分立であることを教えるため、最近は『法の精神』からの抜粋もプリントすることにしています。

★ルソーについては、「むすんでひらいて」のメロディーの作曲者であることや『エミール』についても触れています。その政治思想の取り上げ方は、一見簡単そうですが、実は非常に難しい面があります。『社会契約論』の中でも、「一般意志」はなかなか手強い用語ですが、世界史の授業では説明する時間がありません。問題文は教科書の標準的記述よりは詳しくしてありますが、世界史の授業としては、このような内容がぎりぎりのところだと思います。


《教科書との関連》

◆本文で「理性の光」という語を使って説明しているのは、<東書>と<山川(新)>です。

 ○「18世紀には、人間の理性の光に照らして事物を検討し、迷信や偏見を打破すべきことを主張する啓蒙思想があらわれ、教会や絶対王政の批判を行った。」<東書>

 ○『…啓蒙思想家であり、彼らはたがいに意見を交換しながら、古い偏見を理性の光に照らして打破し、人間と社会に「進歩」をもたらそうとした。』<山川(新)>

モンテスキューについては、意外にも、記述にばらつきがあります。「三権分立」という語も、すべての教科書が使っているわけではありません。最もすぐれた記述と思われる<山川(新)>とたいへん不十分な記述だと思われる<山川(詳説)>の例をあげます。

 ○「モンテスキューはさまざまな政治体制の文明的考察を通じて、イギリスの議会王政を例に権力の分立と王権の制限を主張した(『法の精神』)。」<山川(新)>

 ○「『法の精神』でイギリスの憲政をたたえたモンテスキュー」<山川(詳説)>

◆ルソーについては、モンテスキューよりもさらに記述のばらつきがあります。各教科書の本文の記述量を比較してみます。(なお、1行の字数は教科書によって異なります。30字から36字です。30字は<東書>、36字は<山川(新)>です。)

 <山川(詳説)>  4行
 <山川(新)>   3行余り
 <東書>      1行余り
 <実教>      2行
 <帝国>      1行余り

<東書>と<帝国>は、記述が簡単過ぎます。<山川(詳説)>と<実教>は、ルソーが文明の進歩への懐疑を持っていたことを、きちんと述べています。4行分とっている<山川(詳説)>は破格の扱いと言えるでしょう。<山川(新)>は、一般意志に関わる内容を盛り込もうとしてしている点で意欲的ですが、少し難しい文章になってしまいました。

◆なお、<山川(新)>は、コラムではなく本文で、1ページ半にわたり「民衆世界とブルジョワの公論」について述べ、啓蒙の時代を複合的に伝えています。


※関連テーマ → 【啓蒙・ルソー・女性】

※復習プリントの基本的考え方については 【復習プリントと世界史Bの授業づくり】