復習プリントから考える世界史Bの授業・教科書(中世)【ギリシア語文献とイスラーム文化】
《復習プリントから》 *はやや難
●正統カリフ時代のイスラーム勢力が7世紀半ばに( 1 )からシリア・エジプトを奪うと、ムスリムたちとギリシア語との接触が本格的になった。行政用語はウマイヤ朝時代の半ばからアラビア語に切り替えられていったが、ムスリムたちはギリシア文化の偉大さを知ることとなった。
●アッバース朝最盛期のカリフである( 2 )は、8世紀後半バグダードにギリシア語文献を集めた図書館を建設した。ここは、9世紀前半のマームーンの時代に、「バイト・アルヒクマ[=*( 3 )]」と呼ばれるようになり、ギリシア語文献が組織的にアラビア語に翻訳された。『形而上学』などの( 4 )の哲学書や*( 5 )の医学書が、研究され翻訳されたのである。ギリシア語の*( 6 )[知を愛すること=哲学]は、アラビア語でファルサファと音訳された。[ペルシア語やサンスクリット語の文献も翻訳された。]
●ギリシア語文献の翻訳[ギリシア文化の摂取]を土台に、サーマーン朝時代のブハラに生まれた( 7 )が、11世紀初め、( 4 )哲学を導入してイスラーム哲学を体系化した。また、名著『医学典範』を著した。さらに12世紀後半、コルドバ生まれでムワッヒド朝に仕えた( 8 )は、( 4 )哲学の精緻な注釈を行った。二人の業績をはじめとするアラビア語文献は、12世紀に( 9 )半島やシチリア島で( 10 )語に翻訳され、中世ヨーロッパに大きな影響を与えることになった。
【解答】
1 ビザンツ帝国 2 ハールーン=アッラシード *3 知恵の館 4 アリストテレス *5 ヒポクラテス *6 フィロソフィア 7 イブン=シーナー 8 イブン=ルシュド 9 イベリア 10 ラテン
《授業との関連》
★言語・文字は社会や文化の中核をなすものですが、これまでの世界史教育ではあまり重視されてこなかったように思います。そのため生徒たちは、文化や文化の伝播・変容・混淆をよく理解できないまま、語句の暗記に走らざるをえなかったのではないでしょうか。
★授業では、言語や文字に対するアンテナの感度を良くするよう、さまざまな時代・地域で繰り返し取り上げてきました。イスラーム世界の授業でも、問題にあるように、アラブ人とギリシア語との出会いがはっきりわかるようにしています。
★イブン=シーナーやイブン=ルシュドについては中世ヨーロッパに文化で再び取り上げることになります。中世ヨーロッパにおけるラテン語への翻訳活動を理解するためにも、イスラーム文化がギリシア語文献を受容していった経緯をしっかり理解できるようにしたいと考えています。
★また、イブン=シーナーとイブン=ルシュドについては、生まれた場所や活躍した時期も明示するようにしています。これは、イブン=バットゥータやイブン=ハルドゥーンについても同じです。そうしないと、生徒たちは、イブンのつく人名をただ闇雲に覚えようとすることになります。
★なお、イブン=シーナーとイブン=ルシュドのラテン名は、イスラーム文化では出さないようにしています。生徒たちが混乱しますし、中世ヨーロッパ文化でラテン名も出すのが妥当だと思います。
《教科書との関連》
◆今回のテーマの重要性に留意し、教科書の記述を工夫しているのは、<東書>と<山川(詳説)>です。
◆<東書>は、「イスラーム文明」のところで「ギリシア語からアラビア語へ」というコラムを設け、ヘレニズム時代にさかのぼって記述しています。歴史的経緯がよくわかる文章で、「中世ヨーロッパの文化」の記述に接続しています。授業で<東書>を使う場合は(<山川(新)>・<実教>・<帝国>も同じですが)、コラムの内容を授業の中にきちんと組み入れる工夫が必要です。
◆<山川(詳説)>は、「イスラーム文明の特徴」、「イスラーム文明の発展」、「西ヨーロッパの中世文化」の本文で、再三にわたり取り上げています。これらを関連させて取り上げることができるかどうかは、授業者にかかっています。
※復習プリントの基本的考え方については → 【復習プリントと世界史Bの授業づくり】