♥世界史ブックガイド[文化と社会]②【陳舜臣『ものがたり史記』】

 あまりにも有名な司馬遷の『史記』。「鴻門の会」や「四面楚歌」は、高校漢文の定番となっています。

 しかし、『史記』の内容を読みやすく書いた本は、そう多くありません。文庫化されたものの中では、この『ものがたり史記』が唯一の入門書ではないかと思います。

 呉王・夫差と越王・勾践、蘇秦張儀屈原などについて興味深く書かれていますが、本書後半は、呂不韋始皇帝の本当の父親とも考えられている商人→宰相)から項羽と劉邦までを扱っていて、非常に面白く読めます。そして終章では、司馬遷の悲劇と不屈の歴史家魂が描かれます。

 本書によって、紫式部清少納言も読んでいた(!)『史記』の世界に、しばし浸ることができます。

【中公文庫(2008、原著は1983)、590円)】

※なお、書き下し文と現代語訳が載っている入門書としては、福島正『史記』(角川ソフィア文庫、2010)があります。


◆『史記』の概要(福島正氏の解説をもとに、まとめてみました。)

 ◎『史記』全体は、5部構成。[前91年頃、完成]
  ①「本紀」:王朝や皇帝の記録
  ②「表」:諸国・王侯・大臣などの対照年表
  ③「書」:制度史や文化史
  ④「世家」:諸侯王たちの記録
  ⑤「列伝」:武将・思想家・商人などの伝記、周辺異民族の記録

 ◎その記述スタイルは、①と⑤から「紀伝体」と呼ばれる。

 ☆「本紀」では、太古の天子から前漢武帝までが描かれている。つまり、司馬遷は“現代”までを描いた。また、ここに「項羽本紀」をおいているところに、司馬遷歴史観が表れている(項羽は敗者であり、王朝をひらいたわけではない)。「鴻門の会」や「四面楚歌」は、「項羽本紀」の一節である。

 ☆「世家」には、諸侯王たち(晋の文公や呉王・夫差など)に混じって「孔子世家」があり、司馬遷孔子に対する尊敬の念が表れている。

 ☆「列伝」では、蘇秦張儀屈原、李斯、韓非、老子孟子孫子などとともに、匈奴や朝鮮について述べられている。また、商人や刺客・侠客まで描いているのは、歴史家・司馬遷のすごいところ。