【2015センター試験「世界史B」・問題分析】
《2013年・2014年に引き続き、「世界史B」の問題の分析を行います。今までと同じく、「傾向と対策」的な分析は大手予備校などにおまかせし、高校における世界史教育の充実という観点から述べたいと思います。したがって、試験問題としての良し悪しを評価するとともに、一定の問題提起をおこないます。》
1 時代のバランス
◆2014年は「世界史A」の問題かと思うほど現代史に偏った出題だったが、この点は大きく改善された。古代・中世・近世・近代・現代のバランスがとれていたと思う。
2 地域のバランス
◆地域的なバランスはある程度配慮されていたと思うが、やや東アジアに偏ってしまった。朝鮮史に関わる選択肢が3カ所あったのは珍しい。中央ヨーロッパも大き目の扱いであった。
◆東南アジア、オセアニアに目配りされていてよかったが、オーストラリアの出題が重なってしまったのは、少々残念である(解答番号7と30)。片方を、オセアニアの他の地域から出題すれば、バランスがとれただろう。
◆昨年も述べたが、ラテンアメリカとサハラ以南のアフリカについては、出題を増やすべきである。たとえば、解答番号30の③ソウルをメキシコシティに替えた文にするだけでも、バランスがよくなったと思う。
◆イスラーム世界については目配りが感じられたが、西アジアの近現代史の出題がほしかった。
◆ロシア史に関する設問がなかったのは、問題であろう。
3 出題形式
◆年代を判断させる問題は、従来通り3種類だった。
①同じ世紀の出来事を問う問題
②出来事の時期をa〜dから選ばせる問題
③a〜cの出来事を年代順に並べる問題
①が1問、②が2問、③が2問だったが、①が「2世紀」のみだったのはさびしい。バランスから言えば、近世に①の出題がもう1問ほしかった。
◆空欄補充の語句選択問題は減少し、4問となった。平均点は少し下がるかも知れないが、適切な数である。
◆2つの文の正誤を問う問題が7問あった。やや多いように思う。単純な短文なので、1問ぐらいは3つの文に増やしてもいいのではないか。
◆地図の問題は2問で、いずれもスタンダードな出題であった。ただ、どちらもアジアになってしまったこと、どちらも都市の位置を問う問題になってしまったことは、残念である。人や民族の移動、文化の伝播などを表した地図も考えるべきである。
◆地図以外の図版であるが、図版がなくとも解けるという従来からの問題点は改善されていない。解答番号22に関わる「満州実録」はいいとしても、リスボンの絵と碁の対局の絵は、解答そのものに関わらないものだった。捕虜収容所の地図も同様である。
4 出題の観点
◆全体的に平板な問題が多い中で、言語をテーマとした出題があったのは、たいへんよかった(解答番号8)。世界史教育の改善のためには、このような観点がいっそう必要である。
◆中央ユーラシア史にも関わる遊牧国家の出題(解答番号24)も、評価できる。年代整序での出題は、受験生にとってはたいへんだったかも知れないが。
◆「競技や闘技が行われた場」について問うという観点はよかったが、出題された2文はあまりに単純なものであった(解答番号32)。もう少し工夫がほしい。たとえば、「競技」を文化にまで広げて、古代アテネの演劇コンクールなどを取り上げれば、面白い問題ができたと思う。
◆歴史の数量的把握という観点から、グラフによる出題なども考えるべきである。歴史へのアプローチのしかたを積極的に提示するのも、センター試験の役割ではないだろうか。
◆東アジアの比重が大きくなったためか新課程を意識したためかはわからないが、日本に関わる出題が4問あった。現代史に偏ってしまったのは惜しまれるが、「世界史の中の日本」という観点は非常に大切である。それは、「日本史」の出題にも言えるだろう。
5 センター試験で測る学力とは
◆長年続いてきた出題形式・出題内容のままで、「世界史B」の学力を本当に測れるのだろうか? たとえば4択の正誤判定であるが、並んでいるのはごく短い文で、知識の有無だけを確認する問題になっている。もう少し長い文にして、理解力を問う出題を考えるべきだろう。(この点は、「倫理」の出題を参考にしてほしい。「倫理」は、各大問のリード文も長文で、内容的にもすぐれたものが多い。)
◆センター試験に良問が増えなければ、来年以降の新課程入試になっても、「覚える世界史」から「考え、理解する世界史」への転換は望めない。2021年から始まるという「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」も、センター試験の出題のしかたをそのまま継承するのであれば、世界史教育の改善にはつながらないだろう。
◆ここでは指導要領の問題には触れないが、「世界史の学力とは何か」、「大学入学者にとって世界史的教養とは何か」を真剣に議論すべき時である。
※出題ミスについて
設問の文をていねいに点検してほしかった。残念である。