<問いからつくる世界史の授業>(中世)【正統カリフ時代】

正統カリフ時代(632年〜661年の30年間)は、イスラームの発展にとって極めて大事な期間です。しかし、通常の授業ではあまり時間をとれず、アリーの暗殺に焦点がいきがちです。今回は、そのような傾向を補正するための問題と解説です。
[問題自体は、一応 <標準> です。解説には <プラスα> が含まれています。]

問題(プリントまたは板書)◇

 正統カリフ時代にアラブ人の支配下に入った地方として適切でないものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

 ① メソポタミア
 ② マグリブ
 ③ イラン
 ④ シリア
 ⑤ エジプト

 ※正解は②です。

マグリブがアラブ人の支配下に入ったのは、ウマイヤ朝の時代です。

マグリブという地方名は、アラビア語の意味・現在の3つの国名とともに、定着させたいところです。教える側も意識が薄い場合がありますので、要注意です。現代史では、フランスの植民地となった所として重要です。

★細かいことですが、問題では「イスラーム勢力」というような語を使わず、「アラブ人」を意図的に使っています。このような使い方をすることによって、ウマイヤ朝のアラブ人支配の理解へとつなげています。

★シリア・エジプトについては、教科書にも明記されていますし、両地方をビザンツ帝国から奪ったことは入試問題でも狙われる箇所です。なお、両地方がギリシア語圏であったことは重要です。

★現在の教科書記述や通常の授業では、メソポタミアとイランが支配下に入ったことが明確に伝わらない場合があると思います。ササン朝が滅びたので当然なのですが、生徒たちがきちんと理解できるようにしたいものです。

ササン朝というイラン系王朝が滅びてメソポタミア〜イランが支配下に入ったということは、イラン人のイスラームが始まったということです。この点をしっかり押さえないと、この後のイスラーム史をよく理解できなくなります。なお、メソポタミアは、ほぼイラクにあたります。

★シリア・エジプト・メソポタミア・イランと並べてみるとはっきりわかりますが、イスラームのアラブ人は、正統カリフ時代に、文明の先進地域に(古代文明が栄えた地方に)入っていったのです。ここから、「外来の学問」を積極的に摂取することになりました。

こんな考え方で書いていきます【<問いからつくる世界史の授業>について】