<問いからつくる世界史の授業>(近世)【アメリカ大陸原産の作物・花】

★今年、『ヨーロッパの歴史Ⅱ −植物からみるヨーロッパの歴史−』という本が出版されました[草光俊雄・菅靖子著、放送大学教育振興会]。たいへん興味深い内容で、博物学や庭園の歴史がよくわかります。

★しかし、近年変わってきたとは言え、世界史教育における「植物の視点」は十分ではありません。さまざまな事件や戦争を中心に授業が進められると、残念ながら、重要な作物さえ後景に押しやられることがあります。

★事件や戦争中心の歴史ではなく、広い意味での文化=人間の営みとしての社会・文化を考えることが大切です。そこには、当然のことですが、人間と自然の関わりが含まれます。そのため授業では、「農耕・牧畜や遊牧の始まり」、「羊毛や生糸・綿花の利用」、「アメリカ大陸原産の作物とその伝播」、「茶、コーヒー、カカオ、砂糖の歴史」などに、一定の時間を割いてきました。これらを簡単に扱うことは、とてもできません。

★以下の2問は、このような問題意識を背景にした設問です(「大航海」の授業で取り上げます)。問1はごく標準的なものですが、問2はオリジナル問題で、「花からみる世界史の授業」の一環です。授業は<問題+解説(■の部分)>で構成します。


問題☆ 

問1 アメリカ大陸原産の作物に当てはまらないものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。[標準]

 ① トウモロコシ
 ② サトウキビ
 ③ ジャガイモ
 ④ タバコ

問2 アメリカ大陸原産の植物を、次の①〜④のうちから一つ選べ。[プラスα]

 ① ヒマワリ
 ② スイセン
 ③ バラ
 ④ チューリップ


 ※正解 問1:②のサトウキビ
       問2:①のヒマワリ


■問1については説明は要らないと思いますが、プランテーションで栽培されたサトウキビやコーヒーをアメリカ大陸原産と思い込む生徒もいますので、注意が必要です。

■サトウキビは東南アジア〜インドが原産地と考えられています。また、大航海以前のイスラーム圏でのサトウキビ栽培・砂糖生産についても触れておく必要があります。

★問2に関してですが、私の中では、10年ほど前から「花からみる世界史」というテーマが大切になってきました。人間と花との関わりを、世界史の授業を通して伝えたいと考えてきたのです。花の文様の歴史を組み入れた「花の授業」を、1時間行ったこともありました。近年は、「聖母マリアにまつわる花」も、必ず取り上げるようにしています。

■ヒマワリは、北アメリカで食用として栽培されていました。16世紀にスペインに伝わりましたが、なぜか1世紀ほどは他の国に広がらなかったようです。17世紀から他のヨーロッパ諸国に伝わり、おもに油をとるために栽培されるようになりました。

■ヒマワリは江戸時代に日本にも伝わりましたが、貝原益軒は「もっとも下品なり」と評したそうです。現在の日本人の感覚とは違いますが、サクラ、ツバキ、キクなどとは全く違う印象を持ったのでしょう。

★ちょうど、わかりやすい記事を見つけました。ご覧いただきたいと思います。
「ヒマワリの不思議に迫る」(朝日新聞、2015年8月25日付)。

★なお、ダリア、コスモス、サルビアなども、アメリカ大陸原産です。

スイセンは地中海地方原産、チューリップはアナトリア地方原産です。またバラはユーラシア大陸一帯に自生していましたが、地方により性質が大きく違っていました。ここでは述べませんが、スイセンも、チューリップも、バラも、世界史の授業で興味深く取り上げることができます。

こんな考え方で書いていきます【<問いからつくる世界史の授業>について】