<問いからつくる世界史の授業>(現代)【メキシコ壁画運動】

★今までの授業では、独立後のラテンアメリカの歴史については、メキシコ革命キューバ革命を除き、あまり取り上げられてこなかったと思います。まして、文化には目が届いていなかったのではないでしょうか。

★山川の新課程教科書『詳説世界史B』・『新世界史B』が、現代文化のページでメキシコ壁画運動を取り上げています。このことは、高校教科書の目がようやくラテンアメリカの文化に向けられたという点で、大きな意義があると思います。『詳説』は、シケイロスの名も本文に記しています。また、東書の『世界史B』が「ラテンアメリカの文化」という項を設けていることも、大きく評価できます。

★ただ山川の教科書には、東書のような、ラテンアメリカの文化全体を捉える視点がありません。一方東書の教科書は、フランス革命の前で20世紀のラテンアメリカ文化を取り上げていて、違和感がぬぐえません。また、本文でペルーのインディへニスモを記しているのですから、メキシコ壁画運動にも触れるべきだったと思います。(本文は2行以上余裕があります。また、図版に壁画の一部が使われているのですが、残念ながら説明がありません。)なお、実教の『世界史B』は、壁画運動には触れず、フアレスのところでリベラの壁画を使っています。これでは、生徒たちはフアレスとリベラを同時代人と思ってしまうでしょう。

★私自身は、10数年前に「メキシコの美術:1920-1950」という展覧会を観てから、メキシコの歴史と文化に強い関心を持ってきました。今回のオリジナル問題はそういう中で作成されたものです。授業は、<問題+解説(◆の部分)>で構成します。問題自体には標準性を持たせてありますが、解説部分は教科書の記述を深める内容にしています。


☆ 問題 ☆ [標準]

 「メキシコ壁画運動」について述べた文として正しいものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

 ① イダルゴらのスペインからの独立運動の中で、メキシコ人を鼓舞するために展開された。
 ② フアレスたちが、ナポレオン3世のフランス軍に勝利したことを記念して、推進した。
 ③ 長期独裁政権を維持したディアスが、メキシコのナショナリズムを高揚させるため、推進した。
 ④ メキシコ革命後、メキシコ人のアイデンティティを確かめながら社会変革に向かおうとする中で、展開された。


◆「ラテンアメリカはアジア、アフリカより早く独立した」と言われることがあります。それは事実なのですが、早く植民地化されたことを見落とさないよう、注意しなければなりません。メキシコ史のエポックとなった出来事を並べただけでも、重要なことがわかります。
 
  1521 コルテスによりアステカ王国滅亡
  1821 スペインから独立
  1910〜17 メキシコ革命

 独立まで、300年の歳月が流れていたのです。そして、政治的独立から100年後に革命が起きました。
  
◆高校世界史でも、メキシコ革命は、サパタやビリャも含めて取り上げられるようになりました。ただ、同じ20世紀前半の革命でも、いまだにロシア革命(1917)より軽く扱われる傾向があるのは残念です。メキシコ革命は、「メキシコ社会はどうあるべきか」と同時に、「メキシコ人とは何か」を問うた革命でした。クリオーリョであるカウディーリョ(地主・資本家層)とメスティーソ(労働者・農民層)、インディオ(農民層)が、錯綜した闘いを展開しました。民主的憲法の制定で一応区切りがつきましたが、社会的・経済的格差をめぐる闘いはその後も続いていきました。

メキシコ壁画運動は革命の中から生まれ、1920〜30年代に展開されました。革命は、メキシコ人のアイデンティティインディオメスティーソの文化の中に求めるきっかけともなったのです。(現在のメキシコの人びとの6割がメスティーソ、3割がインディオと言われています。)[正解は④です。]1940年まで革命が継続したというとらえ方もありますが、その場合は、壁画運動はまさに革命とともにあったことになります。

◆壁画運動の中心となったのは、シケイロス、リベラ、オロスコなどの画家たちでした。マニフェストとしては、「メキシコ画家・彫刻家組合の宣言」(1922)があります。大きな壁画にはメキシコの歴史と文化が力強く描かれ、人びとを啓蒙する役割も果たしました。(山川の教科書には、小さいですが、壁画の写真も載っています。)

◆メキシコ人は、革命と壁画運動を通して、精神のスペイン支配から脱し、自分たちの魂の土台を「混血」においたのだと思います。インディオ文化とスペイン語カトリックとの葛藤・融合という過酷な歴史を歩んできたメキシコは、むしろ、これからの世界の道標となるかも知れません。

※関連ページ ➡ コルテスとマリンチェ

こんな考え方で書いていきます【<問いからつくる世界史の授業>について】