【2016センター試験・世界史Bの出題について】

 過去3年と同様、「傾向と対策」的な分析は予備校などにおまかせし、世界史教育の改善という観点からいくつか感想を述べたいと思います。

1 グラフの読み取り問題について[解答番号12]

 この出題を見て、少し救われたような思いがしました。グラフの読み取り問題は13年ぶりとのことですが、長期間にわたって出題がなかったことが問題でした。高校の世界史学習が「考える世界史」となるよう、今後もこのような出題を続けてほしいと思います。
 
2 年代整序問題について[解答番号9・27]

 受験生は戸惑ったかも知れませんが、良い問題だったと思います。文化の流れを理解することは大変重要ですし[9]、「空爆」という観点からの出題[27」もすぐれたものでした。年表の空欄に出来事を入れさせる問題[13・18]も、良問でした。
 なお、時代のバランスはとれていたと思います。

3 地図の出題について[解答番号4・22]

 最近の地図問題の傾向を引き継いでいて、2問とも単純な問題でした。せめて地図中の位置の選択肢をもう1つ増やしてほしいものです。
 以前にも述べましたが、人の移動を表した地図、国・王朝の進出を表した地図、民族や宗教の分布を表した地図など、さまざまな工夫ができるはずです。

4 地域のバランスについて

 出題地域の偏りは少なかったと思います。
 オセアニアの問題もあり[解答番号24・31]、良かったと思いますが、できればハワイやタヒチなどにも目を配ってほしいと思います。このほか、ケベックを取り上げたこと[31]やラテンアメリカを取り上げたこと[8・33」も、評価できます。ただ、後者はマチュ・ピチュとマヤ文明に偏ってしまいました。片方は近現代史からの出題にすべきでした。朝鮮史にも目配りはありました[16・34」が、後で述べる日本史との関連を考えれば、もう一歩踏み込んでもらいたかったと思います。
 残念ながら、アフリカ史の出題は、エジプト[28・29」以外はありませんでした。サハラ以南のアフリカからの出題を考えてほしいと思います。
 諸地域をすべてカバーする難しさはわかります。計36問が続いていますが、出題地域の偏りをなくすため、37問にすることを検討してもいいのではないでしょうか。

5 文化史の出題について

 文化史の出題が多過ぎたということはありません。今までが少な過ぎたのです。
 文化史を狭くとらえて軽く見るような傾向もありましたが、政治・経済・文化・国際関係をトータルにとらえさせる入試問題・世界史教育が必要です。「大学生に求められる世界史的教養」という点からも、文化史を軽視することはできません。
 第1問B・第2問C・第4問Bのリード文は、すぐれたものでした。文化史を含めた総合的な歴史の見方が、よく表れていました。このような見方を、リード文で述べるだけでなく、作問に結びつけていってほしいと思います。

6 図版と小問の関係について[第1問C・第2問AおよびC・第4問B]

 以前から繰り返し述べてきていますが、図版が言わば刺身のつまのような扱いになっています。図版がなくとも答えられる問題だということです。このような出題がなんの疑問も持たれることなく続いてきたのは、不思議というほかありません。
 入試問題にも論理性というものが求められるはずです。図版と小問が結びつかないということは、問題として論理性に欠けるということでしょう。まして、解答番号17のような、下線部と設問を無理やり適合させる出題は、避けるべきです。
 第4問Bの図版を出したことはたいへん良かったと思います。しかし、残念ながら、図版に関する小問はありませんでした。

 適切な資料を提示することや良質なリード文を書くことは大切です。しかし、5でも述べたように、そこにとどまってはならないと思います。「考える世界史」となるような設問が求められているのです。

7 日本の歴史に関わる出題について

 高校の歴史教育が世界史と日本史に分断されてきたのは不幸なことでした。その反省に立って、新課程では「世界史的な視点から日本の歴史を取り上げる」という観点が強く示され、改善の方向が出てきました。昨年は、そのような観点からの出題が4問あり、たいへん良い傾向だと思っていました。
 ところが今回は、新課程初年度の入試であるにもかかわらず、日本に関わる出題がほとんどありませんでした。かろうじてラクスマンや二十一ヵ条要求が選択肢として入っていましたが、この程度の関連であれば従前から見られたことです。「世界史的な視点から日本の歴史を取り上げ」た問題はなかったと言っていいでしょう。
 なぜ新課程の趣旨や新科目「歴史総合」設定の経緯が踏まえられなかったのでしょうか? 残念でなりません。