★ロシア革命とは何だったのか<4つ見方と池田嘉郎『ロシア革命』>

◆昨年(2017年)は、ロシア革命からちょうど100年という年でした。

◆日本では(世界でも?)、それほど大きくは取り上げられなかったと思います。新聞紙上では、10月に若干の特集記事が見られました。雑誌では「現代思想」が、力の入った特集を10月号で組んでいました。

◆いま、ロシア革命をどう見たらいいのでしょうか?

ロシア革命の見方について、私なりに整理してみました(素人の覚え書き程度のものですが)。

ロシア革命に対する見方は、現在まで大きく4つあったのではないかと考えています。


ロシア革命への4つの見方

 A 平等な社会を目指した、史上初の社会主義革命として、高く評価する。

 B 自由な経済活動を前提とする資本主義の擁護の立場から、否定的にとらえる。

 C 十月革命を高く評価しながら、スターリンなどによって社会主義が変質させられたとする。

 D レーニンをも相対化しつつ、自由や民主主義の観点から、批判的にとらえ返す。

  ① 十月革命〜戦時共産主義の時期から専制が始まったとする。

  ② 二月革命から臨時政府の時期を詳しく検討し、現代的な課題を明らかにする。


4つの見方を検討してみると

ロシア革命の評価は、戦間期〜冷戦期を中心に、大きくAとBに分かれました。

◆ただ冷戦期から、Cの見方もしだいに広がっていきました。きっかけは、1956年の、フルシチョフによるスターリン批判でした。トロツキーも、当然ですが、典型的なCの見方です。

スターリンによる大粛清が明らかになり、ハンガリー事件(1956)、チェコ事件(1968)などを目の当たりにした人々から、D①の見方が出てきたと思います。たとえば、松田道雄編『ドキュメント現代史1 ロシア革命』(平凡社、1972)は、そのような見方で編集されていました。今となっては、貴重な資料集です。

◆D②は、昨年出版された、池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』(岩波新書)に代表される見方です。

◆C・Dの見方には、「全体主義」論も影響を与えたと思われます。ファシズムスターリン体制を同質とする見方で、ハンナ・アーレントがこの見方を代表しています。

◆東欧社会主義圏の崩壊(1989)、ソ連の解体(1991)という歴史的な出来事の後、AやCの見方は後景に退きました。それに伴い、Bも特に主張されなくなりました。

◆現在は、さまざまのヴァリエーションを持ちながらも、Dの見方が一般的なのだと思います。


池田嘉郎『ロシア革命』について

◆池田嘉郎の『ロシア革命』は、とても参考になりました。ただ、釈然としないものが、読後に残りました。

◆従来の本とは違い、二月革命後の臨時政府に焦点を当てています。ボリシェヴィキ中心のロシア革命史からは完全に脱しています。しかし、レーニンの位置づけは、あの程度でいいのでしょうか? 揶揄的な人物評も、気になりました。

◆カデットとその周辺の人たち、ケレンスキーなどはよく描かれています。この点が新しいのですが、それが弱点にもなっていると思います。ロシア革命の全体像を描くというよりも、臨時政府に関わった人々を哀悼する本になってしまったような気がするのです。

◆残念ながら、叙述の中から、当時の労働者や農民のすがたが浮かび上がってくることはありませんでした。このことは、ロシア革命史としては、致命的なように思われます。

◆意外なことに、日本では、一般向けのしっかりしたロシア革命本がほとんどありません。池田嘉郎とは別の視点からの、良質なロシア革命概説書が出版されることを望んだいます。