世界史 こんな「考える授業」をしてみました ⑧【絵画・航海日誌・音楽で考える大西洋奴隷貿易】

★今回は、「考える授業」のための「教材の工夫」がメインになっています。

★教科書と図表を使うことで精一杯の場合もあるかと思いますが、少し「教材の工夫」をすることで、生徒たちの取り組みが違ってきます。

★今回の授業は、絵画史料と世界史上の出来事を結びつけ、文字史料と音楽で考えを深めるというかたちをとっています。

★使用した絵画・航海日誌・音楽は、次の通りです。

 〇絵画:ターナー「奴隷船」(1840)
 〇奴隷船船長ジョン・ニュートンの「航海日誌」(1751)
 〇音楽:「アメイジング・グレイス」(歌詞、楽譜、CD)

 ※申し訳ありません。本ブログでは、画像は使用していません。

★「19世紀のイギリスの自由主義的改革」の最初の授業で行いました。

 ※学習したばかりの大西洋三角貿易を確認しながら、奴隷貿易の禁止(1807)と奴隷制廃止(1833)に重点をおいて理解するためです。

★今回の授業は、50分は必要です。考える時間のとり方、説明のし方によっては、60分以上かかるかも知れません。その場合は、【まとめ】を次時の最初に行います。

★授業の流れを、やや詳しく紹介してみます。


【導入】

◆「19世紀のイギリスの自由主義的改革」に入ることを話してから、ターナーの絵を提示します(タイトルは伏せています)。

 ※パワーポイントなどで提示するほか、各自に配布するプリントもあればいいと思います。

◆教師「これは、イギリスのターナーという画家が1840年に描いた絵です。(少し見てもらってから)なかなか印象的な絵なのですが、これはどんな様子を描いた絵だと思いますか? よく見て、考えてみてください。」

 ※生徒各自が考える、周りの生徒と話し合う、グループ単位で話し合うなど、方法はいくつかあります。

 ※10分ぐらい考えてもらった後、何人かに発表してもらいます。


【展開1】

◆教師「いろんな意見が出ましたね。なかなか鋭い見方もありました。もう少し考えを深めてもらうために、ヒントを出します。まず、この船は、漁船ではありません。もう少し考えてみてください。」

 ※数分後、二つ目のヒントを出します。
 
◆教師「じゃあ、二つ目のヒントです。これは、決定的なヒントですよ。この海は、バルト海とか北海とか地中海ではなくて、大西洋です。」

 ※、再び話し合いと発表をしてもらった後、絵のタイトルを教え、ターナーが『奴隷貿易廃止史』という本を読んで衝撃受け、描いたことを説明します。

 ※既習の大西洋三角貿易の概略を確認します。

◆教師「もう一度絵に戻ります。さっき発表にもありましたが、ここに描かれているのは、人間の足ですね。魚が集まってきています。それから、こっちも見てください、ちょっとわかりにくいんですが、海面に手が出ていますね。これはどういうことなんでしょう? (間をおいて)これは、嵐のため間違って船から落ちた人ではないんです。どういう状態の人だと思いますか? 奴隷貿易ですからね。」

 ※意見を出してもらった後、航海の途中(約40日間)、死んだ奴隷は海に捨てられたこと、船長によっては弱った奴隷も捨てたことを話します。


【展開2】

◆史料(ジョン・ニュートンの航海日誌)を配布します。解説を加え、奴隷船の実態を知ってもらいます。

 ※次のような資料です。実際に配布するのは、もう少し詳しいものです。

  「5月23日木曜日 男の奴隷死す(第34番)
   5月29日水曜日 少年の奴隷、赤痢で死す(第86番)」

 ※ジョン・ニュートンの航海日誌は、『世界の教科書シリーズ34 イギリスの歴史(イギリス中学校歴史教科書)』[明石書店]から使わせていただいています。


【まとめ】

◆教師『最後に、ある歌を紹介します。みなさん、聞いたことがあると思います。とても有名な曲ですから。聞いてもらう前に、ちょっと説明しますね。歌詞を書いたのは、ジョン・ニュートンという人です。そうです。さっきの航海日誌を書いた奴隷船船長です。彼は、若い頃、奴隷を運ぶという仕事をしていました。そのことを後悔して書いた詩です。自分の今までの人生を悔いて、牧師になる修行をしていた時に書いたそうです。18世紀の後半のことです。メロディーの由来は、はっきりわかっていません。イングランド民謡か、スコットランド民謡かも知れません。その曲とは……、誰かわかりますか? ……その曲とは、「アメイジング・グレイス」です。』

 ※楽譜と歌詞(対訳)を配布します。歌詞を読んでもらった後、CDを聞きます。今回は、イギリスの歌手サラ・ブライトマンの歌で聞いてもらいました。

奴隷貿易の禁止(1807)を取り上げ、ウィルバーフォースが尽力したこと、「アメイジング・グレイス」も間接的に影響したことを説明します。また、奴隷制そのものの廃止はやや遅れたこと(1833)を話します。このような改革の後に、ターナーの絵が描かれたことを付け加え、授業を終了します。

◆私は行いませんでしたが、生徒たちに感想をまとめてもらうことも必要かも知れません。


☆「イギリスの自由主義的改革」の授業では、審査法廃止から入ることが多いと思います。奴隷貿易の禁止を取り上げる方は、少ないかも知れません。しかし、これはきわめて重要な改革です。また、この歴史をきちんと踏まえないと、アメリカ合衆国の19世紀も理解が不十分になります。