その他 断章2 【物語】

■前5世紀のヘロドトスは、「ヒストリエー」という語を使った。これは、「調査・探求」の意味であった。
■「ヒストリエー」はラテン語に入り、ヒストリア(historia)となった。これが、英語の history の語源である。
history に story という語が含まれているように、ラテン語のヒストリアには「探求・研究」のほかに、「物語」という意味もあった。 history から story が分化したのである。 story は、最初はおもに「教会の物語、聖者の物語」という意味で使われた。
ヘロドトスは違うが、歴史家の記述は、王朝や帝国の物語となることが多かった。近代以降は、国民国家形成の物語となった。歴史は国民史となり、国民教育(学校教育)の中でいっそう強化された(国によっては現在も強化されている)。このように、歴史は「大きな物語」として成立してきた。
■多くの歴史家・歴史研究者は、歴史を「大きな物語」から脱皮させようとしてきた。「大きな物語」が見失ってきたものを回復させようとしてきた。それが「社会史」や「心性史」への注目、疫病や人口などへの注目であった。一方で、近代を世界的なシステムとして捉えようとする動きも続いてきた。これらを踏まえた新しい流れが、「グローバル・ヒストリー」である。
■ただ、近代国際経済システムの歴史を「グローバル・ヒストリー」と呼び変えるだけでは、十分ではないだろう。かといって、文明史にスライドすることもできないだろう。「グローバル・ヒストリー」が、個別学問領域を越境しながら、ミクロにかつマクロに、どのような「物語」を織り出そうとしているのか、とても興味深い。