世界史B教科書の記述を比較してみると9 【地図(宗教改革後の宗派分布)】

※目的・対象教科書・評価については、【比較してみると1】

【地図(宗教改革後のヨーロッパの宗派分布)】
■世界史教科書における地図は理解を深めるために極めて重要ですが、詳しく見ると、教科書によって少なからず違いがあることがわかます。「宗教改革後のヨーロッパの宗派分布」で比較してみました。

<山川>    
ルター派カルヴァン派の伝播を矢印で表すなど、よく工夫されている。しかし、残念ながら、イギリス国教会は表されていない。現行版はアイルランドが途中で切れていたが、改善された。ただ、なぜかアイルランドという表記がない。のちのピューリタン革命やアイルランド問題の理解の上でも、アイルランドという表記は必要である。フランスのユグノーの分布は修正が必要ではないだろうか?(東書の表し方が適切であると思われる。)ナントの記載もなかった。

<実教>    
問題なのは、イギリスやドイツというように、現在の国名と国境線で記したことである。なぜ、現在の国と国境線の地図に、宗教改革後の宗派分布を表したのだろう? タイトルは「ヨーロッパの宗教分布」となっており、まるで現代ヨーロッパの宗教分布を表したような表記なのだが。宗教改革のページに掲載する以上、必要なのはきちんとした歴史地図である。なお、アイルランドの表記はない。

<東書>    
プロテスタントの3派が区分され、ギリシア正教の分布まで含めて、たいへん見やすい。アイルランドもきちんと表記されている。ただ、イングランドカルヴァン派が表されていない。アウクスブルクの記載がないのも残念である。やや煩瑣にはなるが、「イングランド王国」というように、王国まできちんと書いた方がよいのではないか。そのほうが、後のコラム「イギリスは存在しない」の理解にも生かされる。
 なお、「主権国家群の形成」との関連で宗教改革を位置づけており、工夫されている。ただ授業担当者は、ルネサンスとの関連にも触れながら授業しなければならないだろう。カルヴァン派イエズス会についての記述は、他の2社に比べ、優れている。

※地図については3社とも工夫しており、少し前の世界史教科書とは雲泥の差である。特に目立ったものを挙げておきたい。
<山川> 「ゾロアスター教マニ教の伝播」、「中央アジアのトルコ化と東西トルキスタン」「19世紀の西アジアバルカン半島」、「第一次世界大戦後のヨーロッパ」
<実教> 「12世紀ごろの海域世界」、「19世紀前半の世界」、「地球規模での人の移動(1860〜1920)」、「19世紀末の列強の中国分割」
<東書> 「スワヒリ文化の成立」、「14世紀後半の東南アジア」、「カフカス中央アジアへのロシアの進出」、「ソ連の解体と民族紛争」

※<東書>のコラム「イギリスは存在しない」は、大変適切な内容である。しかし、それが本文に生かされず、中世から「イギリス」と書いているのは、不思議であり残念である。グレートブリテン王国成立(1707)の前まで、一貫して「イングランド」という表記をしている教科書は、「新世界史B」(世B306、山川出版社)のみである。 → 【ノルマン・コンクェストと「イギリス史」】ミニ授業【ノルマン・コンクェストと「イギリス」(その1)】

※<東書>の地図で、指摘しておかなければならないことがある。教科書として優れた構成をしながら、それに見合う地図になっていない箇所がある(現行版から全く改善されていない)。古代ギリシアを「オリエント世界と東地中海世界」で扱い、古代ローマを含む章とは別にしているにもかかわらず、「フェニキア人とギリシア人の交易路・植民市」の地図に植民市ナウクラティスの記載がないのである(他の2社はきちんと記載している)。ちぐはぐなことが起きないよう、十分に注意をはらうべきである。
 なお、ナウクラティスの記載がないことに関連するのかも知れないが、ギリシアに関する<東書>の本文の内容はかなり古めかしく、新しい知見が含まれていない。これでは、優れた構成をした意味がなくなってしまうだろう。随所で新しい取り組みをしている教科書だけに、残念である。


世界史B教科書を比較してみると10【南京事件 および まとめ】