世界史 こんな「考える授業」をしてみました⑩【ルネサンスからバロックへ】

ルネサンスからバロックへの変化は、それほどわかりやすいものではありません。世界史の教科書でも、ルネサンスからバロックへの移り行きは、明確には述べられてこなかったと思います。

◇教科書では「17世紀にはバロック美術が盛んになった」と述べられているだけです。また、王権との関わりで述べられることが多いため、ルネサンスからの変化は等閑視されてしまいます。

◇なぜこのような状態が続いてきたのでしょうか? 分担執筆のためもあるでしょう。ただ根本的には、別の問題があるように思われます。

◇長らく世界史は、政治史、社会経済史、国際関係史、文化史などの「接着」で成り立ってきました。特に、<政治史、社会経済史、国際関係史>と<文化史>が分断傾向にあるため、美術史・思想史などの成果が、教科書記述にあまり取り入れられていないのです。

◇新課程の「世界史探究」は、このような状況を改善する科目となるでしょうか?


◆以上のような問題意識から、今回は、「1枚の絵を手がかりに、ルネサンスからバロックへの移り行きを考える授業」を紹介してみます。


【授業での取り上げ方】

◆資料として、1枚の絵を提示します。

  〇絵は、カラヴァッジョの「ロレートの聖母」です。

   [申し訳ありませんが、画像は他でご覧ください。]

  〇最初は、画家名とタイトル以外は伝えません。生徒たちによく見てもらい、感想を述べてもらいます。

◆次に、絵のサイズ、制作年(1606頃)を伝え、「ロレートはイタリアの巡礼地で、巡礼者の前に聖母が顕現した場面が描かれていること」を説明します。

◆また、カトリックプロテスタントのどちらの立場で描かれたか、考えてもらいます。この時、トリエント公会議(1545〜63)で聖画像の宗教的役割が確認されたことを復習します。カラヴァッジョの「ロレートの聖母」は、カトリック改革(対抗宗教改革)のうねりの中で制作されたのでした。(したがって、制作年も重要になります。)

◆さらに、ルネサンスラファエロの聖母子像と比較し、「ロレートの聖母」の特徴を考えてもらいます。ドラマチックで感情に訴える表現、光と闇の強いコントラストに着目させます。

◆まとめとして、「カラヴァッジョのこのような表現が、17世紀ヨーロッパの画家たちに影響を与え、バロックという新しい美術様式につながっていったこと」を説明します。

◆大きく見れば、「プロテスタントの形成とカトリック改革の中でルネサンスは終わり、カトリック圏から新しい絵画表現が生まれていった」という流れになります。


◇私の場合、この授業は、カトリック改革の最後に位置付けています。

◇今回の授業では触れていませんが、次のことも重要です。

 ・ルネサンス後、宗教画から風景や静物が独立して、風景画や静物画が生まれていったこと。

 ・この流れは、産業社会の成立・進展とも関連しながら、19世紀の印象派、ポスト印象派までつながっていくこと。

◇「文化史の学習が作者と作品名の暗記になってしまう」という現状を改めなければなりません。文化を当時の歴史全体の中に位置づけて教える必要があります。今回の授業は、そのような試みの一つです。


【参考文献】

 高階秀嗣『誰も知らない「名画の見方」』(小学館101ビジュアル新書、2010)

 宮下規久朗『聖と俗』(岩波書店、2018)

 宮下規久朗『もっと知りたいカラヴァッジョ』(東京美術、2009)