世界史 こんな「考える授業」をしてみました⑨【ヘンリ8世の首長「法」】
◆16世紀イングランドの首長法をどのような歴史的文脈で教えるかは、大変重要です。
◆「エピソード紹介型授業」に傾斜すると、次のような内容になりがちです。
<ルターやカルヴァンと違い、イギリスの宗教改革は国王の私的な離婚問題から始まった。>
◆一見、問題はなさそうです。ヘンリ8世の6度の結婚なども話すと、宗教改革としてはかなり軽い扱いになります。
◆このような説明では、本質に触れることはできないでしょう。私の授業では、まず、この時期はイングランドという国名を使っています。次に、キャサリン妃との離婚問題は、むしろ公的な問題として扱っています。(そうでなければ、トマス・モアの処刑は単なる私怨になってしまうでしょう。)
◆教科書では分けて叙述されることが多いのですが、宗教改革と主権国家形成を統合的にとらえることが大切です。言い換えれば、首長法をイングランドの主権国家宣言として位置付けることが必要です。
◆以下に紹介するのは、そのような観点からの「考える授業」です。
【授業での取り上げ方】
◇ヘンリ8世の首長法で、イングランドはローマ・カトリック教会からの離脱を決めました。この「法」に注目してください。王令や勅令ではありませんね。
◇この後出てくるフランスでは、(教科書や図表で確認させながら)ナントの「王令(勅令)」となっていますね。イングランドでは首長法です。エリザベス1世の時も統一法です。
◇なぜ、イングランドでは「法」なのでしょうか?
■このような問いかけを通して、世界史の勉強が決して「暗記」ではないことを、生徒たちに伝えることができると思います。
■この問いかけの後の授業展開はいろいろな形が考えられますが、ポイントは、イングランドの宗教改革が議会での立法を通じて行われたことに気づけるかどうかです。
■まとめとして、次のことを伝えています。
イングランドでは、国王・側近・議会が連携して、ローマ・カトリック教会からの分離を決定したこと、それはとりもなおさずイングランドの主権国家宣言であったこと。
■主権国家としての経済的基盤にも触れておかなければなりません。また、イングランドにおける議会の歴史を確認することも大切です。
◇高校世界史の枠を越えることになるかも知れませんが、発展的な問いもあります。
◇<17世紀の内戦(いわゆる「ピューリタン革命」)〜名誉革命(国教会体制・立憲君主政の確立)>の時期を理解するためにも、欠かせない問いになります。統一法以後、なぜピューリタンが増えていったのか、という問いとも重なっています。
◇今回は、問いを提示するだけにとどめておきたいと思います。
<イングランドの人々の間には、どのような宗教的心性が形成されていたのか?>
【参考文献】
川北稔・木畑洋一編『イギリスの歴史』(有斐閣、2000)