【世界史A・こんな授業をしてみました<その1>】

★2013年度に実施した世界史Aの授業を3回にわたって紹介します。

★「どんな考え方に基づき、どんな工夫がされたか」という観点で、お読みください。3回の内容は、次の通りです。

  <その1> 授業の方針
  <その2> 年間の授業内容(前半)
  <その3> 年間の授業内容(後半)

★方針も授業内容も通常の世界史Aとは異なっていると思います。注の部分まで目を通してくだされば、授業の意図や内容をより理解していただけると思います。

★世界史Bのように受験という目標がある場合、それほど充実した授業でなくても、生徒たちはついてきます(生徒たちからすれば、ついていかざるをえません)。しかし世界史Aは、一般的には受験をモチベーションにできません。そういう意味では、世界史Aは、世界史Bよりも教師の力量がストレートに表れてしまう科目かも知れません。


■生徒:○○学院高校1年生
■単位数:2単位
■使用教科書:「現代の世界史」(山川出版社、世A307[新課程版])
■使用資料集:「ニューステージ世界史詳覧」(浜島書店)

 ※教科書・資料集は、私が選んだものではありません。1年生ですので、もう少し分かりやすいものでよかったと思います。

 ※生徒たちは、日本史A(2単位)を並行して履修していました。2年次は世界史Bか日本史Bを選択し、3年次まで継続するカリキュラムです。


《Ⅰ.授業の方針として、次のようなことを考えました。》

1 歴史の多様な面を理解できるようにする。政治的事件や戦争の羅列に陥らないよう、文化的内容(美術・音楽・文字・言語・宗教・神話・思想など)を組み入れ、比較史の観点を含んだ「総合的な社会文化史」として授業を構成する。

2 1年次で履修することから、高校地歴・公民の基礎科目の一つとして位置づけ、日本史・地理とのつながりを理解できるようにする。また2年次に倫理を必修で履修するので、その土台となる内容を押さえる。

3 1・2を踏まえながら、高校生にとって必須の世界史的教養は何かを考え、ある程度独自の内容構成をする。

4 具体的には、古代の文明・文化に一定の時間を割き、教科書よりも詳しい内容で行う。諸地域の歴史の土台を形づくるものであり、その知識は近世以降の歴史を理解する上でも欠かすことができないと考えるからである。一方で、近代という時代の理解も、必須の内容である。そのため、中世史については、イスラームの成立を除いては、ほとんどを割愛せざるをえない。近世アジア史についても同様である。現代史についても、教科書ほど詳しくは触れられないだろう。

5 <歴史の勉強=暗記>と考えている生徒がほとんどなので、歴史のおもしろさを感じられるように、エピソードや豆知識的なものを紹介する。事件や人名の単なる暗記にならないよう、出来事同士や地域間のつながりを理解できるようにする。また、他教科で学習する内容とのつながりにも気づかせる。

6 実物やレプリカを見たり、実際に触れてもらう機会をつくる。

7 2とも関連するが、世界地理(国名と国の位置、地勢など)の知識が非常に乏しいので、地図の学習を大切にする。

8 生徒たちは詳しい資料集を購入してはいるが、さらに理解を深めるため、独自の資料をプリントする。

9 板書事項を写すだけにとどまらない、自分らしいノートづくりにチャレンジさせる。

10 定期考査問題は、すべてオリジナル問題とする。単なる穴埋め問題にならないよう、地図・写真・史料を使い、説明問題やセンター型の問題も組み入れる。


★1の「総合的な社会文化史」という言い方が最適かどうか私自身も疑問がありますが、政治史や経済史を含んだものとして使用しています。これまで<政治・経済・文化の複雑な絡み合いを総体としてとらえる歴史の授業>を目指してきました。それを世界史Aのなかで具体化しようとしました。具体例は、<その2><その3>に載せています。

★2についてですが、世界史Aという科目を単独で考えることはできません。「指導要領で世界史が必修になっているから」というような受け身の考え方ではなく、学校のカリキュラム全体の中での世界史Aの位置づけを明確にする必要があります。

★3・4からわかるように、私は「近現代史中心の世界史A」という考え方をとっていません。近現代史中心の授業にした場合、日本史Bや地理Bと組み合わせて世界史Aを履修する生徒たちの知識は偏ったものになります。諸地域の歴史的・文化的土台の理解が極めて不十分なままになるからです。高校生にとって、古代の文明・文化の理解は必須の世界史的教養だと考えています。4月当初、生徒たちには「私のこれからの授業は世界史Aでも世界史Bでもありません。世界史Cかな。」と言っていました。

★8のプリントは、地図演習用のプリント数枚を含めて、年間40枚(B5版)を越えました。

★9に関しては、できるだけ、私が口頭で話すことや自分の感想をメモしてもらうようにしました。生徒たちは「板書をきれいに写す」ことだけを行ってきたため、慣れるまでは大変だったようです。

★10でオリジナル問題を強調していますが、授業の力と作問の力は連動しています。授業にクリエイティヴに取り組んでいれば、テスト問題の安易なコピペには走らないはずです。

★2単位という制約もあるため(本来は3単位必要です)、多くの世界史Aの授業が政治的事件や戦争の羅列になっているのではないでしょうか。「近現代史中心の世界史A」として展開する場合も、困難なことではありますが、近現代を社会的・文化的に総体としてとらえ返すことが必要です。

★本ブログでは世界史Aの新課程用教科書の比較・検討は行っていませんが、私が見た範囲では、第一学習社の「高等学校世界史A」(世A309)が最も工夫されていると思います。<わかりやすさ>と<内容の豊富さ・新しさ>を両立させることに成功しているのではないでしょうか。おろそかになりがちな文化史も、きちんと位置づけられています。


世界史の授業全般については ⇒ 【授業を考える】

【世界史A・こんな授業をしてみました<その2>】