総合 【「イギリスのEU離脱」で思うこと】

◆昨日のイギリス国民投票の結果は、世界中に大きな衝撃を与えました。世界史の教員も、もう一度イギリスやEUについて再考しながら、授業を構成していかなければならないでしょう。◆イギリスやEUの専門家でもない私が今日の段階で言えることは限られてい…

古代 初期キリスト教 【アタナシウス派などの主張をどう教えるか】

◆初期キリスト教史は、必ずしも教えやすくないと思います。特に、次の2点をわかりやすく(しかし本質からそれずに)教えるのは、なかなか大変です。 ①『新約聖書』は、なぜギリシア語(コイネー)で書かれたのか。 [言い換えれば、ヘレニズムで取り上げる…

古代 メソポタミア【太陰暦・週7日制・六十進法】

☆太陰暦も週7日制も六十進法も、古代のメソポタミアで成立しました。これらについての世界史の教科書の記述は簡単ですし、通常は授業で詳しく触れる余裕もありません。しかし、歴史的には極めて重要なものばかりです。それぞれの成立過程を、できるだけわか…

<問いからつくる世界史の授業>(近世)【童話の誕生】

★近世ヨーロッパの社会と文化については、教科書・資料集でも、以前より大分取り上げられるようになりました。特に「18世紀啓蒙」については、「新世界史B」(山川)や「現代の世界史(A)」(山川)のように、力を入れた記述をしている教科書もあります。…

★書評:シリル・P・クタンセ『海から見た世界史』

「海洋国家の地政学」という副題を持つ本書は、2013年にフランスで出版されました。あまり年数をおかずに日本語版が出版されたのは、うれしいことです(大塚宏子訳、監修・樺山紘一)。 本書は、古代から現代までを、「海洋を舞台とした歴史」という視点から…

<問いからつくる世界史の授業[資料]>(近世)【「名誉革命」、そしてアイルランド】

★17世紀の「イギリス史」の授業は、旧来のとらえ方(イングランド中心の「ピューリタン革命〜王政復古〜名誉革命」というリニアな史観)で行えば割合簡単ですが、新しい見方を盛り込もうとすると、かなりの工夫が必要です。★今回は詳述しませんが、まず「ブ…

★新科目「歴史総合」・その課題を考える

【はじめに】◇まだ次期学習指導要領は発表されていませんが、2022年度からの新必修科目「歴史総合」は、現行の「世界史A」と「日本史A」を統合した科目になるとされています。世界史・日本史という枠を越えた、総合的な近現代史の科目の設置は、高校の歴史…

★<新・映像の世紀第5集「若者たちの反乱」>について

◆2016年2月21日に、NHKテレビで放送されました。1950年代末、60年代後半、80年代末に焦点を当てた構成でした。◆制作者は「若者たちの反乱」という視点から20世紀後半の歴史を描こうとしたのでしょう。第3集については詳しく分析しましたが、今回は最小限の…

♥ブログを読んでいただき、ありがとうございます

◆ブログ「世界史の扉をあけると」を書き始めて、ちょうど3年半になります。今日、ページビューが180000を越えました。当初はほとんど読まれなかったことを考えると、信じられないような気持ちです。ブログを読んでいただいた方々に、心から感謝したい…

<問いからつくる世界史の授業>(総合)【反ユダヤ主義と作曲家】

★ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺で頂点に達した反ユダヤ主義。今回は、反ユダヤ主義についての授業の試みです。シリーズ<問いからつくる世界史の授業>の他のテーマと同じく、授業は<オリジナル問題と解説(■の印がついた部分)>で構成します。★反ユダヤ主…

♥世界史ブックガイド⑭[文化と社会]【金谷治『孟子』】

最近は新刊書の案内をしてきましたが、今回は半世紀前に出版された本です。 特に古い本を取り上げようという気持ちはなかったのですが、孟子について調べていて、興味深いことがわかりました。それは、近年、孟子についての本はほとんど出ていないという事実…

【2016センター試験・世界史Bの出題について】

過去3年と同様、「傾向と対策」的な分析は予備校などにおまかせし、世界史教育の改善という観点からいくつか感想を述べたいと思います。1 グラフの読み取り問題について[解答番号12] この出題を見て、少し救われたような思いがしました。グラフの読み取…

♥世界史ブックガイド[文化と社会]⑬【保苅瑞穂『モンテーニュ よく生き、よく死ぬために』

「モンテーニュは有名だけど過去の思想家、現代とは関係ない」と、ほとんどの人が思っているでしょう。「ギリシア・ローマの古典に通暁した、ちょっと保守的な教養人」というイメージもつきまといます。それに、『エセー』を読むのはかなり大変です。 私も、…

★<新・映像の世紀 第3集「時代は独裁者を求めた」>が伝えたこと・伝えなかったこと

■第3集<時代は独裁者を求めた>が、昨日NHKで放送されました。映像で見る20世紀前半の歴史は迫力がありましたが、現代史のドキュメンタリー番組制作の難しさをあらためて感じさせられました。当然のことですが、私たちが見るのは編集された映像です。番組…

<問いからつくる世界史の授業>(現代)【メキシコ壁画運動】

★今までの授業では、独立後のラテンアメリカの歴史については、メキシコ革命やキューバ革命を除き、あまり取り上げられてこなかったと思います。まして、文化には目が届いていなかったのではないでしょうか。★山川の新課程教科書『詳説世界史B』・『新世界…

★単純化で見えなくなるもの【朝日新聞「歴試学のススメ・世界史編」について】

◆津野田興一さん執筆の「歴試学のススメ・世界史篇」については、以前にも取り上げました。ただ、毎回感じることがありますので、簡単に述べておきたいと思います。◆問題点は二つあります。一つ目は、歴史の流れの単純化です。他の史実や他の視点を捨象して…

♥世界史ブックガイド[文化と社会]⑫【ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』】

両親の言葉であるベンガル語の中で幼少期を過ごしながら、アメリカで英語によって自己形成し、著名な作家となったジュンパ・ラヒリ。彼女が、イタリア語に惹かれてイタリアに移住し、習得したイタリア語で書いたのが、本書です。21のエッセイと2つの短編小…

<問いからつくる世界史の授業>(古代)【イエスのことば・聖書の言語】

★当然のことではありますが、キリスト教の成立は、世界史においてたいへん重要なテーマです。授業では、歴史としてキリスト教の成立を教える以上、新約聖書学の成果を踏まえなければならないでしょう。具体的には、次のプロセスをきちんとたどる授業を行うこ…

<問いからつくる世界史の授業>(現代)【クルド人問題】

★100年前の第一次世界大戦の結果、オスマン帝国は滅亡し[1922]、2度の条約締結を経て[セーヴル条約(1920)→ローザンヌ条約(1923)]、トルコ共和国の成立が国際的に認められました。ムスタファ・ケマルの強力なリーダーシップのもと、半植民地化の圧力…

<問いからつくる世界史の授業[資料]>(現代)【ロシア革命の困難】

★まもなく、ロシア革命(1917)から100年になります。ゴルバチョフのペレストロイカからソ連邦消滅(1991)という出来事以降、ロシア革命をより客観的に振り返ることができるようになっていると思います。★今回も、通常の高校世界史では使われない資料に基づ…

♥世界史ブックガイド[文化と社会]⑪【金沢百枝『ロマネスク美術革命』】

最新のロマネスク美術概説書です。巧みな構成で(たとえば「はじめに」から第一章にかけては導入部として見事です)、読者をロマネスク美術へと誘ってくれます。内容は高度ですが、叙述は難解ではありません。図版は豊富です。 全体の構成は次の通りです。 …

<問いからつくる世界史の授業[資料]>(近代)【エミリー・ブロンテは祈り、闘った】

★世界史でもジェンダーやフェミニズムという語が使用されるようになっています。ただ、教科書の記述が不十分な中で、授業ではどのようにアプローチすればいいのか、模索が続いてきました。★当然のことながら、女性参政権実現の経過についてはすべての教科書…

<問いからつくる世界史の授業>(近代〜現代)【アイルランドとアメリカ合衆国】

★世界史を教えていると、常に歴史意識が問われることになります。ひいては、現在の自分の政治的・社会的意識も問われることになりますので、なかなかたいへんです。世界史の中には自分が問われるリトマス試験紙のようなものが数限りなくある、という感じです…

<問いからつくる世界史の授業>(総合)【ハート記号はいつから?】

★あえて繰り返しますが、政治的な事件や戦争、政治制度や経済システムの変遷だけが歴史ではありません。民族や宗教や思想などを加えても、まだ十分とは言えないでしょう。世界史をよく理解するためには(人びとの営みとして世界史を理解するためには)、身近…

♥世界史ブックガイド[文化と社会]⑩【ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』】

★「フェミニズム批評の古典」と言われる本の新訳が出ました(片山亜紀訳)。★原著の出版は1929年でしたが、前年の講演をもとにしています。1928年は、イギリスにおいて、21歳以上の男女が平等に選挙権を持つようになった年でした。そのような時代の中で、ウ…

<問いからつくる世界史の授業>(近世)【ザビエル②[ザビエルの見た日本]】

★ザビエルという、歴史上たいへんポピュラーな人物に関する問題の2回目です。★このような人物の場合、簡単な確認をして済ますことはできます。ただ、授業内容や発問の更新を常に心がけていれば、それでは済まなくなります。少し調べ直してみるだけで、重要…

<問いからつくる世界史・歴史総合の授業>(近代〜現代)【明治以降の日本人移民 −ハワイ・カリフォルニア・ブラジル−】

★現在の歴史教育においては、世界史においても日本史においても、「世界史の中の日本」という視点が欠かせないものとなっています。今回は、「世界史の中の日本」を、国境を越えた人の移動から考える授業です。★18世紀末以降から現代までの「国民国家」の時…

<問いからつくる世界史の授業>(近世)【アメリカ大陸原産の作物・花】

★今年、『ヨーロッパの歴史Ⅱ −植物からみるヨーロッパの歴史−』という本が出版されました[草光俊雄・菅靖子著、放送大学教育振興会]。たいへん興味深い内容で、博物学や庭園の歴史がよくわかります。★しかし、近年変わってきたとは言え、世界史教育におけ…

★戦後70年の年に読む「ポツダム宣言」・「降伏文書」

◆コンパクトな史料集として、『「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?』が出版されました。恥ずかしいことですが、本書で、初めて「ポツダム宣言」や「降伏文書」をきちんと読みました。◆本書には、「ポツダム宣言」と「降伏文書」、さらに「カイロ宣…

<問いからつくる世界史・歴史総合の授業>(近代)【ペリー来航③[アメリカ大統領の国書]】

★ペリー来航に関する問題の3問目です。今回は4択の問題ではありません。★1回目来航時のペリーの最大の目的は、開港を求める大統領フィルモアの国書を幕府に渡すことでした。その際、国書の言語と通訳をどうするかは、重要な問題でした。★ペリー一行と幕府…